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それは私がいつも利用している駅でのことです。
ある日、電車がやって来る側にあるホームの端に、女が立っていました。
普通の人は線路の方へ向いて立つのですが、その女は反対側の壁の前で、壁に向かって立っているのです。
鼻と壁がくっついてしまうのではないかと思えるほどに、近い距離で。
そして目を大きく見開いて壁を見つめているのです。
なまじ目の大きな美人だったので、余計に怖いと言う印象を受けました。
彼女を見ていると、ホラー映画のやばい女がみんな美女である理由が、わかるような気がします。
私は刹那声をかけることを考えましたが、すぐにその考えを改めました。
あまりにも近寄りがたい雰囲気だったからです。
他の人も同じように感じたのでしょう。
みんな彼女をちらちらと見てはいるのですが、誰も声をかけようとはしませんでした。
それは駅員でさえ同じでした。
その日を境に、毎朝彼女の姿を見かけるようになりました。
やはり壁のまん前に立ち、壁を凝視し続けています。
まるで目の前にあるその壁が、親の敵でもあるかのように鬼気迫るものでした。
当然声をかける人はいませんでしたが、慣れてきたのかみんなあまり気にしなくなったようです。
壁を見つめる以外は何もしないのですから。