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千貌の華 forbidden blood  作者: 猫文字 隼人
第一章 血染めの華
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4

「おはよう」

 転校二日目、そういって教室に入るがクラスメイトからは何の反応も無く視線を送られるだけだった。昨日の対応はすこしまずかったのは自覚しているので想定内ではあった。そのまま自席まで移動し、先に来ていた黒木にも声をかける。相変わらずでかいヘッドホンで音楽を聴きながら机に突っ伏している。

 俺の声に気付いていない様なのでわき腹をつつくと黒木はびくっと驚いて飛び起きる。

「おはようございますお嬢様、ヘッドホンは教室では外しましょうね」

 嫌味にならない程度に冗談っぽく言ってみる。

「お、おはよう……」

 思ったより普通の反応を返した黒木は、いそいそとヘッドホンをしまった。まぁ続いてカナル式が出てきたのだけど。

「なんだよ、びっくりしすぎだろ。寝てたのか?」

「いや、そういうの慣れてないから」

 何も特別な事はしていないけれど黒木はクラスで呪いだなんだって奴でハブられているんだったか。

「あっそ、これ昨日言ってたCDな。別に返すのはいつでも良い。聴き易い奴を選んできたつもりだけど黒いジャケットのアルバムはちょっとキツ目だから合わないなら無理しなくていい」

 呪い云々、いじめ関連の話は話題にしたくなかったので気のない感じで話を流しながら見繕ったCDを渡すと、黒木はそれを大事そうに両手でしっかりと受け取ってくれた。

「……ありがと、本当に持ってきてくれたんだ。聴いてみる。……それより、さ。あんたアタシに喋りかけてていいの? 何か言われてるんじゃない? アタシの話」

 同時に視線をそらして小声でそう言って来た。せっかく話題を流したのに、とため息をつく。

「知らん。お前までくだらない事言うなら俺はちょっとお前の事嫌いになるけど」

「……そっか、うん。ありがと」

 黒木はうつむいて小声でそう答えた。やっぱり表情は見えない。

「あ、それよかまた教科書頼むわ」

「ん、いいよ」

 昨日よりちょっとだけ対応が柔らかい気がした。

 その後、その日の授業が終わるまで特に会話が弾む事は無かったが、日常会話くらいはぽつぽつ交わした。


 終礼が終わり、カバンに教科書を入れて帰る準備をしていると、

「ねえ、今日あんたんち行っても良い?」

 黒木がなんでもなさそうな顔で聞いてくる。周りを意識してか、小声だった。

「なんで。やだよ。CD持ってきただろ」

「うーん、いいじゃん。行きたい。行かせろ」

 冗談めかして指で二の腕をぐりぐりしながら懇願してくる。

 別に男の一人暮らしって言っても別に俺は悪さをするつもりがないので問題は無いのだが。それよりも黒木はどうしてそんなにうちに来たがるのだろう。

「……相談事とかか?」

 それなら事情とかしがらみのない転校生の俺は適任だろう。相談事なんてものは基本的に聞いてもらった時点で満足するものの方が圧倒的に多いし、聞く相手というのは誰でもいい。黒木の場合いじめなんて気にしないタイプに見えるけど、実際のところは解らないし。

 だが俺の勘は外れたようで、

「んー、そういうわけじゃないんだけど」

 黒木は視線を泳がせながらそう返した。けれど思いつきでは無く何らかの意図はあるように見える。

 煮え切らないので間を取ることにしてみる。

「よし、黒木ん家は方角どっち?」

「え、アタシの? 南」

 成る程南か、と思って気が付く。

「あ、すまん方角聞いてもわからん。校門から出て右? 左? まっすぐ?」

 ふふっと笑われる。

「右だよ。そりゃまだ方角まではわかんないよね」

 あまり太陽の向きとか気にしてなかったので方角は把握していなかった。少し恥ずかしい。

 ただとりあえず帰る方向は同じのようだ。

「そうか、じゃあ途中まで一緒に帰るか」

「え、それは止めたほうが」

 ほんの少しだけしゅんとした表情でそう言う。

「それってさっきと同じ理由? それとも逆で俺と帰りたくないってこと?」

 にや、と笑い顔を向ける。

「……ああ、解った解った。じゃあ一緒にかえろ」

 黒木は顔を赤くして目線も合わせず、手をぱたぱた振りながらそう言う。

 その態度がらしくなくて、少しだけ微笑ましかった。


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