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夏休みの課題は当然転校前の学校とは種類が違うし、免除されている。
本来なら嬉しいはずだが、授業中行われた答え合わせでは自分だけ手持ち無沙汰でやや疎外感を感じていた。長い授業時間の終わりをチャイムが気だるげに告げる。
「さんきゅ、助かった。どうせ次からも見せてもらうし机このままでいいか?」
隣の黒木にそう告げると、
「いいよ、でもアタシ休み時間どこか行ったりしないからそれでよければ」
「ああ、気にしない」
特に友達もいないし便所にも行きたくないので机に突っ伏す。
……休み時間なのに机並べて二人とも席についてるのは何かおかしいかもしれない。
気がついてどこかに行こうと席を立とうとした。
「ねえ」
黒木に声をかけられる。視線はやはりこちらには向けず前を向いたまま。
「なんだ?」
「あんた、佐倉だっけ。佐倉は音楽何聴くの?」
またそれか。
「何でそんなに気になる?」
「別に? ただ音楽好きって言ってたじゃん。だから気になってるだけだよ」
まあ確かにずっとヘッドホンしてるってことはこの黒木も音楽が好きなんだろう。ただ残念ながら俺の好きな音楽はあんまり人にぺらぺら喋って喜ばれるタイプじゃあないのでどうしたものかと考える。
「ちょっと待ってくれ」
ポケットに手を突っ込んでポータブルミュージックプレイヤーを取り出してイヤホンだけ引き抜いてぽい、と黒木に渡す。
「教科書のお礼もかねて貸してやるよ。休み時間終わったら返してくれ」
「ん? いいの? あんがと」
おう、と応えて席を立った。廊下に向かうまでの短い距離ではあったがクラスメイトのまとわり付くような視線を感じる。
目立ちすぎたのだろうか? すこし嫌な空気だ、と思いながら廊下に出た。
後ろ手に扉を閉めてすぐ、待ち構えていたかの様にクラスメイトであろう女子に声をかけられた。地味で真面目そうなタイプの女子。
「ね、佐倉君、転校してきたばかりだから解らないだろうし忠告してあげる。黒木さんにあまり関わらない方がいいよ。あの子、おかしいから。あなたも呪われちゃうよ」
呪い? その学校には似つかわしくない単語が聞こえていたはずの周囲のクラスメイトは、けれどその言葉を肯定するように無言で俺に視線を絡ませた。……いじめというやつだろうか? くだらない。
「はじめまして、ご忠告どうもありがとう。……だが転校早々そういうくだらないことに俺は関わりたくない。他所でやってくれ」
芝居がかった仕草でそう吐き捨ててそのままトイレに向かう。相手の顔はもう見なかった。