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「流石手慣れてるんだな。黒木もだがカラシも見直した」
食後、食器を洗いながら手伝ってくれている黒木にそう告げる。カラシなどおでんに付けるだけだと思っていたのだが辛子醤油を絡ませた鶏ささみと水菜の和え物は絶品だった。
「ふふ、ありがと。まぁ独り暮らしだし料理くらいは男の子には負けられないよ。それに料理は……もしかしたら私の唯一の趣味かもしれないなぁ」
「乙女だから花言葉とかもな」
「い、言わなきゃ良かった……!」
にやりと笑って突っ込みを入れると黒木は赤面する。
黒木にはエプロンが無かったので仕方なくばあちゃんの割烹着を貸したのだが、ちぐはぐでアンバランスなその見た目が少しだけ可笑しかった。
「んー、でも料理が趣味か……それ実利兼ねてるしいいな。何か魔法みたいな凄い名前の料理とか作ってそう」
「魔法みたいなって?」
「……うーん、シュールストレミングとか」
「それ凄くクサい奴だし料理じゃないから!」
洗い物を終えて居間で雑談していると時刻はもう二十二時になっていた。
「なぁ、黒木。お前家帰らないとまずいな、すっかり忘れてた。家まで送るよ」
珈琲を淹れ直したのだが黒木は猫舌なのか盛んにふーふー息で冷ましながらすすっている。黒木は言われて思い出したかの様にこっちを見て、一度天井を見やる。うーん。ま、いっかと言いつつ、
「ごめん、今晩だけ泊めてよ。……あ、煮物出しっぱ――ああ、こっちの話。私は佐倉くんのおばあちゃんの部屋で寝るからさ。お願い!」
ぱん、と手と合わせてそう言う。駄目、と言いたかったがその時はまぁいいかと思ってしまった。
「まぁ、客用の寝具ならあるしいいけど」
「え!? ほんとにいいの!?」
どうやら素直にOKが出るとは思ってなかったらしい。じゃあイジワルしたくなるというものだ。
「じゃあやっぱ駄目」
「なんでさ! なんでよ!」
黒木は突っ伏して机をだんだんと叩きながらだだっ子のようにそう言った。ただあまりいじめるとまためきめき聞こえて来そうなので冗談だと早めに知らせておく。
「じゃ、布団敷くか。黒木ももう今日は疲れたろ?」
伸びをしながらそう言うとなんだか不満あり気な表情を返してきたが、実際色々あって俺自身もどっと疲れているし、一人で考えたい事もあったので、急いで就寝準備を開始した。
客用の寝具を押入れから出しながら、そういえばずっと黒木に聞いてなかった事を思い出した。
「そういえば、あまり今回の事と関係ない事聞いても良いか?」
まだ寝たくなかったらしい黒木は若干むくれて畳の上で体育座りしていたが食いついてきた。
「何? いいよ、何でも答えるよ」
「黒木って下の名前なんていうんだ?」
「……え、私言ったよね?」
めきめき。
「え!? ……いや、聞いてない! 聞いてないぞ! ちょ、落ち着け! 本当に!」
その後まだめきめき音が鳴り止まないので本当に聞いてないのに忘れてすんませんしたぁ! とか必死に謝罪すると冗談だよ~、そういえば言ってなかったね、と言われた。
冗談になってない。コワイ。
「澪だよ、兄さんが雫だからちょっと字面が似てるでしょ。昔は間違えられた事もあったし」
なんか思ったより女の子っぽい名前だった。けどまたそのまま言ったら噛み付かれそうなので自重することにしておく。
「そっか、成る程。覚えやすいな……っと。よしこれで準備完了。それじゃ黒木、また明日」
「何で聞いた!?」
「えっ!?」
何!? 何を怒ってるんだ!?
「……名前聞いたからには名前で呼ばれるのかと。違うなら何で聞いたのさ」
つーんと。横を向いて唇をとがらせながらむくれている……気がする。
落ち着け、落ち着け俺。ここは何て返すのがベストなんだ。……良し。
「いや、知的好奇心で」
瞬間、枕が顔面にめり込んでいた。




