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千貌の華 forbidden blood  作者: 猫文字 隼人
第二章 神に愛されし者
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13:her side

 熱いシャワーを浴びて落ち着きを取り戻してきた。

 見られてしまった。佐倉くんの前で【神に愛されし(アマデウス)】化してしまった。

 破壊衝動に飲まれている所もばっちりと。自分でも思い出すだけで吐きそうになるアレを。

 彼にだけは絶対に見られる訳にはいかなかったのに。 

 佐倉くんは私のこと嫌いになっただろうか。口調だって混乱して地が出まくってしまっていた。

 きっとあの日クラスメイトから私が動物を殺してばらばらにする女だと聞いていたはずだ。

 けれど、今日学校で声をかけてくれたし、一緒に帰ってもくれた。ならきっと佐倉くんはその話をただの噂だと信じていなかったはずだ。そう彼は私がそんな事する奴じゃないと思ってくれていたはず。そうじゃなくちゃ私のような化け物と一緒に居てくれる訳がないのだから。

 けれど、実際に目にしてそれが本当だと知って、佐倉くんは私をどう思うんだろう。拒絶されるのだろうか。駄目だ。多分耐えられない。震えが酷くなる。

 けど。

 そう、けれど。キスされた。

 

 勿論あれは私を落ち着ける為だったと、それくらいは私にもわかる。まともな状況ではなかったのだから。でも彼は初日から私を綺麗だとも言ってくれていた。だったら――。

 いや、違う。逆にそういう綺麗だとか可愛いとか誰にでも言って隙を見せればキスするような駄目な人間なのかもしれない、そう考えると知らぬ間に私は震えていた。

 もしそうだったら。私以外にもそんなことをしていたら。

 私は自身の破壊衝動を止める事が出来るのだろうか。

……この手で佐倉くんを――。

 駄目だ。それだけは絶対に阻止しなくてはならない。

 とにかく、大まかに血を落とした。バスルーム壁面にかけてあったスポンジを見つけ、手に取る。

ボディソープを付けて揉み込むと豊かな泡がふわふわと産まれてくる。その様子を見ながらふと、これは佐倉くんが、いつも使ってるスポンジとボディソープだとぼんやりと意識した。当たり前なんだけど、考えると少しからだが熱くなる。なんだろうこれ。

『助けてくれてありがとな』

 確信する。それはやっぱりあの時と同じだった。佐倉くんは、やはり……。


 佐倉くんは私の期待を裏切る。いつも良い意味で裏切ってくれる。暖かいものが身体の中心から沸き起こる感覚を感じる。たくさんの泡でしっかりと身体を洗っていく。なんだか、肌の上をすべるスポンジが気持ち良かった。

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