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千貌の華 forbidden blood  作者: 猫文字 隼人
第一章 血染めの華
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8:her side

 シャワーを浴びた後、私はタオルだけを首にかけ明かりも付けずリビングの椅子に腰かけてぼんやりと闇を見つめていた。

「あの後、何を言われたんだろ」

 わかりきっている。私の、話だ。それしかありえないだろう。

 右腕がぎちぎちと軋む。私は独りだった。別に良い。昔あの光景を見られたのは確かに失態だった。だがそれでも別に問題ないと思っていた。クラスで無視されるだけだった。先生にも問いただされたが証拠はなかった。知りません、証拠はあるんですか? それだけで済んだ。問題ない。そう、何も問題は起こらない。

 けれど噂は付きまとう。高校に進学しても、どこからともなくその噂が流れ、皆は私を恐れ、避けた。動物を残虐に殺す異常者だと。そしてそれが真実であると私は知っている。弁解の仕様も無い。

 私は誰とも関わることが無かったし孤独は覚悟の上だった。

 夏休みが終わり二学期が始まると同時に転校生が入学してきた。どこのどいつがこんな微妙な時期に入ってくるんだと思った。だが先生に先導されクラスに入ってきた生徒を見て驚いた。

 知っているような気がした。その後再度記憶と照らし合わせる。何度も。

 似ている。記憶の彼と。だが気のせいだ、と言い聞かせた。

 今更どうしようというのだ。私は独りだ。別にそれを辛いとは思わない。

 私は、だって【神に愛されし者】なんだから。

 皮肉めいたこの名称、初めて知った時は反吐が出ると思った。だがこれは仕方が無いんだ。

 これは、諦めるしかないんだ。私は独りぼっちなんだ。そう思いこんだ。

 けれど、私は諦め切れていなかった。

 最初は自分から接触した。離れて行くならそれは仕方ない。私はそもそも独り、駄目で元々なのだと、そう言い聞かせながら。

 ずっと諦めたフリをして生きてきた。けれどそれはやっぱりフリでしか無かった。私は本当は求めていたのだ。それは光だった。それは救いだった。それが欲しかった。

 人とのつながりを求めていた。ずっとその想いに気付いていたけれど、閉じ込めて見ぬ振りをしていた。

 だが私は失敗した。嫌いだ、と言われた。私は絶望した。ああ、やはりな、と。本当はすぐその場で泣き叫びたかった。私以外を全て破壊して、そのまま窓から飛び降りて死んでしまいたかった。

 けれど、すぐにあいつは喋りかけてくれた。勿論教科書を見せてもらいたかっただけなのは私でも解った。そしてあいつがどうして私に冷たくしたのかを知った。会話中にイヤホンをしていた為だという。

 それは私という存在そのものを否定したのではなかった。それは正せるのだから。ならばまだ大丈夫、それならばあいつといるときはイヤホンを外せばいいだけなのだから。私自身という存在を否定された訳では無かったのだから。


 あいつの趣味は音楽である事を思い出しもう一度聞いてみた。何を聴くのかと。

 あいつはミュージックプレイヤーを貸してくれた。そこから流れる音は衝撃だった。聴いた事の無いジャンル。だが好みだった。好みだったし、それは私にとって利のある音だった。プレイヤーを返した。少し失礼な事を言われた。腹が立った。でもあいつは取り繕う為ではあるだろうが私を綺麗だともいった。解っている、それが本心でない事は。

 けれど、それでも綺麗だと、言ってくれたのだ。その言葉だけで私は動揺した。綺麗。

 嬉しい。でも口からは逆の言葉が出た。出てしまった。けれどあまり気にしていないようだった。良かった。

 もしかして、学校に行くのが、楽しく感じられるかもしれない。

 私の中にまだ『女の子』が少し残っていた。


――だが。

 だがよく考えろ。客観視しろ。そもそも時間の問題だ。クラスメイトに何か吹き込まれていたのだ。その内容は考えるまでも無い。そしたらあいつだって。

『黒木って動物を殺してばらばらにして遊んでる異常者だぜ。近寄らないほうが良い』

 軋む。軋む。心が。腕が。軋んで悲鳴を上げる。

 私は独りだ。別にそれでいい。覚悟はした。既にそのつもりだった。

 けれど。

 話し掛けられたら、それに慣れてしまう。

 優しくされたら、それに慣れてしまう。

 手を繋いだら、もっと、求めてしまう。

 今更捨てられない。これは私のものだ。欲求が肥大し私の心を覆っていく。

 破壊を求める欲求とは別の場所に。

 欲しい。欲しい。手放したくない。絶対に。何を置いても。何を犠牲にしても。

 軋みながら震える手でヘッドホンをかけボリュームを上げる。少し落ち着く。

 あいつが選んでくれた音楽。それが私を癒してくれる。周りの世界から守ってくれる。


 もし明日、あいつが私によそよそしい態度を取ってきたら。もしも。もしも。もしも。

 その時は、どうしよう。私は耐えられるのだろうか。周りのクラスメイトをたちを許せるだろうか。もし私に残された唯一つの光を奪ったのならば。

 ちぎって。ちぎって。

 ちぎってちぎってちぎってちぎってちぎってちぎって潰す。

 許さない。

 けれどそんなことしたら余計にあいつは離れていくだろう。

 駄目。ちぎっては駄目。耐えなければ。けれど、ああ。

 あいつに、いや佐倉くんにそんな態度を取られたら私がどうなるかなんて私でもわからなかっ

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