鋼鉄の魔獣
むかし仕事をしていて思いついた話です。救いは一切訪れません。引き返すことをお勧めします。
我々は森に生きる民、この深い森の外は地をかける魔獣や空飛ぶ魔獣が徘徊する魔境だ。
だがここは木々が我々を隠し守ってくれる。
しかし、不安がないわけではない。
「北の森が鋼鉄の魔獣に襲われたのですって。」
北の森から逃げてきた者の話では、森の外から獣の叫び声が響き、その後仲間たちとともに森の木々がなぎ倒され、視界をさえぎる物がなくなったところを空飛ぶ魔獣どもに襲われたらしい。
「生き残った者はほとんどいなかったそうよ・・・」
「あそこは若い森だ、ここは安心だよ。」
俺は目の前にいる幼馴染を安心させるようにそう答えた。
実際に北の森と比べると、この森の木々は何倍も大きく頑丈だ。
いくら噂の鋼鉄の魔獣でも手を出せないだろう・・
「そうよね、だいじょうぶだよね。」
僕の言葉に幼馴染は微笑んだ。
「さあ行こうか。」
ここは森の外縁部、こんなところにいるから不安になるのだ。
突然轟音が響きわたった。
とっさに振り返った俺が見たものは・・何もなかった。
そこにいたはずの幼馴染も、そこにあった森の木々も・・
俺は逃げた、何をどうやったのか分からないが気がついたら家にいた。
「お兄ちゃん」
家には不安そうにしている妹と弟がいた。
「父さんと母さんはどうした。」
妹は震えながら俺にしがみついてきた。
「わかんない、帰ってこないの、お兄ちゃんこの音怖いよ。」
弟は家の隅で耳をふさいでいる。
「鋼鉄の魔獣が出た、ここから逃げるぞ。」
俺に声に弟は立ちあがった。
その時、家の壁が弟と一緒に吹き飛んだ。
弟は血を流して倒れている。生きているのか死んでいるのかも分からない。
妹は声にならない叫び声をあげる。
俺は妹の手を引き家から逃げ出した。
「しかたがない、しかたがないんだ・・」
俺はそう呟きながら妹の手を引いて走った。
周囲にいる仲間たちが次々と魔獣の牙に切り裂かれていく。
俺は必死に逃げた。しかし、いつのまにか妹の手が軽くなっているような気がして振り向いた。
「あーーーーーーーーーーーー!」
そこに妹はいなかった、手を離したわけではない。妹の左手を俺はまだ握っている。
俺はその場に立ち尽くした。何も考えられずに周囲の仲間がいなくなるのをただ見ていた。
そのとき、幼子を抱えた血まみれの女性と目が合った。
女性は俺に幼子を差し出し、目で訴えてきた。
「(この子をお願い)」
俺は幼子を受け取るとまた走り出した。
代償行動だったのだろう。
そしてどれだけの時間が経ったのだろうか。いつのまにか魔獣の咆哮は聞こえなくなっていた。
立ち止まった俺の周りには誰もいなかった。
腕の中にいた幼子が動いた。
「ママはどこ・・」
俺は笑顔を作ろうとして失敗し、泣きながら幼子の頭を撫でた。
幼子も泣き始めた。
俺は泣き疲れて寝てしまった幼子を抱いて、深い森の奥へと歩き出した。
深い深い森の奥くえと・・・
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「バッテリーが切れたか。エンジン式と違って振動もないし軽いけど長時間使うにはむいてないな。」
「あなた、草刈お疲れ様です。お昼にしませんか?」
「そうだな、バッテリーも充電しないと草刈機も動かないし、そうしようか。」
家から我が家の小さな天使様が顔を出した。
「パパ、もうお花植えられる?」
「一美、お花を植えるには残りの草を刈ってから耕さないといけないから今は無理だよ。」
チュンチュン、草刈をした場所に鳥たちが群がってくる。
「鳥さんたちもお昼みたいだし、僕らもお昼をたべようか。」
「うん!」
特に深い意味はありません。