努力の意味
俺、高田秋人は自分で言うのもなんだが努力家だ。
勉強も運動も小さい頃からずっと頑張ってきていた。
勉強は小学生の時から毎日五時間はしているし、運動も毎日早朝にランニングをして体力作りをし、サッカークラブに入って頑張ってきた。
中学に入ってからは、美容や服にもかなり気を使い、雑誌を買い込み研究。
筋トレなんかも初めて、自分を日々磨く生活だった。
さて、そんな感じで努力を積み重ねた結果、現在高校生の俺はどうなっていると思う?
「はぁ……」
県内でも有数の底辺高校に俺はいた。
「おい、ため息なんかついてないでさっさと飯買ってこい! デブスが!」
「あ、はい!」
しかも、パシらされていた。
何故あそこまで努力をしたのにこうなったのか……理由は俺自身が一番分かっている。
俺には才能がなかったのだ。
そう、一つとして。
毎日勉強はしていた。
けれど成績はいつもビリだった。
小さい頃から体力作りをし、サッカーもしていた。
しかし、スポーツテストはいつも最下位だった。
健康に気を使い、筋トレもしていた。
だが、デブでブスなのは変わらなかった。
才能には勝てない。
俺は中学三年生の時にそれを悟り、全てを諦めた。
努力は今でも続けているが、報われるとは思っていない。
「はぁっ……はぁ……っ」
今もパシらされて少し走っただけで息切れしている。
毎日のランニングの成果は、全くもって出ていない。
うーん、そろそろ頑張るなんてしんどいことやめて、諦めて堕落した人生を歩むのもいいかもしれないなぁ……。
「あ」
そんなことを考えていると、ドンっ、と俺は誰かにぶつかった。
……まずい。
俺は恐怖した。
この学校で誰かとぶつかるなんて……やってしまった。
恐る恐る俺は上を見る。
「……や!」
……へ? 驚いて、ついそんな声を出す。
そこにいたのは金髪の少女だった。
いや、ただの金髪ならこの底辺高校においては驚かないのだが……その金髪は明らかに地毛だった。
染めたような汚い金ではなく、
綺麗な……神々しいとまで言える金髪だった。
こんな人、うちの学校にいただろうか?
見たことないが……転校生?
「いやいやー、転校生じゃないよー。私、神様」
「はぁ?」
急にこいつは何を言うんだ……神様?
あれだろうか? ちょっと変な子なんだろうか?
「変な子じゃないって! 神様だよ。神様。アイアムゴット」
「はぁ……急いでいるのでもういいですか? ぶつかったのは謝るので」
「急いでるって? どこか行くの?」
「恥ずかしながらパシらされてるんだよ。そこの購買でパンを買ってこないと……ん?」
あれ? ここ、どこだ?
さっきまで学校にいたはずなのに……なんだこの真っ白な場所は!
「あー、パシリかー。人間って残酷だね」
「ちょっと待て。ここどこだ?」
「ん? 天界だよ?」
「んんん?」
「良かったね。もうパシリしなくていいよー」
「良くねえよっ!」
天界ぃ? はぁ?
え、なに? どういうこと?
もしかして俺死んじゃった?
ということはこいつは本当に神様なのか⁉︎
それならさっきから起きてる不思議な現象もまあ納得できるけどさぁ……。
「うん、君は死んじゃったのでーす」
「えぇ……なんでだよ。理由を全く覚えてないんだけど」
「あぁ、うん。私がミスって学校ごと消し去っちゃった。テヘペロ」
「テヘペロじゃねえよ!」
学校ごと消し去っちゃったって……無茶苦茶だ。
「まあ、神様もたまにはミスするよね」
「どんなミスしてるんだよ……」
「本当は可愛い子がいたからちょっと風吹かせてパンツ見ようとしただけなのに……うーん、失敗失敗」
「ただの変態じゃねえか……神様なら風なんて吹かせなくてもパンツくらい見れるだろ」
「風でめくれるのがいいんだよ! 分かってないなぁ」
「分かりたくもない」
はぁ、なんなんだよいったい……なんでこんな変な感じで俺の人生終わっちゃったの?
本当に今までの努力無駄じゃん……うーん、死にたい。
あ、もう死んでるんでしたね。
「それでなに? 俺この後どうなるの? 天国か地獄にでも行くの?」
「ん? そうしたいの? それなら天国に行かせてあげるけど。私がミスって殺しちゃった訳だし」
「マジで⁉︎ 努力を続けて良かったー!」
天国に行けるならもう現世に未練などない。
バイバイ父さん母さん。俺はのんびり天国ライフを歩みます!
「本当にそれで良いのー? もう一つ、君には選択肢があるんだけど」
「ん? もう一つの選択肢?」
「そ、ねぇ……君、もう一度生まれない?」
「はあ?」
「そうだね……俗にいうところの転生というものだよ」
「て、転生⁉︎」
つまり、生まれ変われるってことか?
でも……。
「良いよ。転生はしない。もう生きるのには疲れた。うんざりだ……」
「本当に良いの? 後悔しない?」
「…………しないよ」
「ここで死んだら、本当に君の今までの努力は無駄になるんだよ?」
「………………」
努力が……無駄に。
「でも……俺には才能が絶望的なまでにないんだよ」
「あるよ、君には努力の才能があったじゃないか」
「……努力の……才能……」
でも、そんなもの……他の才能がなければ。
「そうだね。そうかもしれない。なら、他の才能を与えてあげようじゃないか」
「な、なに……⁉︎」
「君の努力を、実らせる時が来たんだよ! 今度こそ、最高の人生を歩みたいと思わないかい?」
「…………本当に、努力が実るか」
「うん、君がちゃんと努力さえ続ければね」
「……するよ」
「ん?」
「俺は……転生をする!」
転生して、今度こそ最高の人生を目指すんだ!
「良い声だ。じゃあ転生させるよ!」
「ああっ!」
俺が勢いよく返事をすると、周りを光の輪が囲った。
そしてその輪がクルクルと回り出す。
どうやらこれで転生出来るらしい。
そうして俺の人生は終わり、始まった。