思い出と約束
「この、身体のため……?」
「俺が今こうしてキミの手を取っているのだって、リフィアの中にいるから出来ることだ。もし俺そのままだったらこんなこと出来やしない」
全て、俺でもリフィアらしくもない、演技をしているからこそ出来ること。
ヤケクソ、と言い換えたって良い。
「こんな可愛い子の手を取るとか、本当に無理だ」
「…………」
「……? どうした、顔を赤くして」
「リフィアさんの顔でそんなこと言われたら……普通に照れる……」
あ、そうか。
「まあだから、俺は他人の身体だからって、割りとこうした相手に対して配慮のないことを言ったりやったりしちゃうからってこと」
「……それを止めるための、わたし……?」
「そういうこと」
繋いだ彼女の手を話し、一歩だけ距離を取る。
「リフィアのことが好きな君なら、行き過ぎた言動を止めてくれるだろ? リフィアらしくないことをしたら窘めてくれたっていい。それこそ、マリンに嫌われたさっきの打算的な提案とかさ」
自分の言葉に苦笑を浮かべ、リフィアの胸元に手の平を押さえつける。
まるでそこに、俺という心があるかのように。
「確かに結局のところ、これは打算に塗れている。でも、そういう思考をしてしまうのが俺だ。本物のリフィアのように、優しさだけで誰かを助けることなんて出来やしない。でも……それでもマリン、俺にはお前が必要だ。だから頼む、協力してくれ」
「…………」
しばらく、無言で俺を見つめた後――
「……分かった」
――マリンは顔を少しだけ赤くし、渋々といった表情で、頷いてくれた。
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「確かに結局のところ、これは打算に塗れている。でも、そういう思考をしてしまうのが俺だ。本物のリフィアのように、優しさだけで誰かを助けることなんて出来やしない。でも……それでもマリン、俺にはお前が必要だ。だから頼む、協力してくれ」
その言葉を聞いたマリンは頭の中に、違う、という言葉が咄嗟に出てきた。
そう……違う。
打算塗れなんかじゃない。
それならさっき、貴族に絡まれている自分を見た時、彼が自分を助ける理由なんてどこにもなかった。
それぐらい、彼女でもすぐに分かることだった。
昔……リフィアに助けられた時も、同じだ。
貴族がただ平民である自分を一方的に責めてきて、心細くて泣きそうになっていた。
そんな時に、リフィアに助けられた、あの時と。
あの時のリフィアもまた、貴族に目をつけられたらダメなことぐらい、分かっていただろうに。
それでも後先考えず、助けてくれた。
それが、嬉しくて……。
だから自分は……。
「…………」
……それを、リフィアの中にいるという彼もした。
リフィアとは違うのに、リフィアと同じことを。
リフィアの中に別人がいることに、かなり怒りを覚えたが……今はそのそっくりな部分のおかげで、その怒りも収まった。
彼が入って良かったと、その時になってマリンは初めて思った。
だから――
「……分かった」
――そう、返事をした。
だけど、彼の中に愛しの彼女の影を見たことなんて、知られたくなくて……まして、入ったのが彼で良かったなんて思ったと、悟られたくなくて……かなり素っ気のない返事になってしまった。
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