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report.7

「ほんっとうに、申し訳ございませんでした!!」


「え、えっと、私は気にしてないから、ね? そんなに謝らなくても……」


 シルヴィアの提案により、模擬戦闘を始まってから約数時間が経った。


 勿論、全部の戦いは滞りなく進んだのが──その間、シルヴィアは結果として戦闘の様子を全く見てはいなかった。


 それと言うのも、全てはこの少女へと関係する。


 第143期である高身長のクリストや、彼とコンビを組んでいた少年、そしてシルヴィアに先ほどから何度も謝罪を繰り返しているのが、発端である水色と紫が混ざった髪の少女──ユキだった。


 彼女の『オラリオン』──いわゆる固有の空間を生み出す力──で生成された世界で、シルヴィアとユキは激闘を交わした。


 剣を合わせること実に百回に及び、その間シルヴィアには無数の氷が投げ込まれていた。


 だが、それらを全て粉砕し、ユキと互角以上に張り合ったのが原因なのか。


 シルヴィアは倒れてしまい、医務室に運ばれてきたのだ。


 ユキがいつごろから謝り始めていたのかは分からないが、少なくともシルヴィアが起きてからずっと謝り続けてる気がする。


「気にすんなって。別に俺は被害を受けたわけじゃないし……ほら、お前もいつまでも拗ねてんなよ」


「うっさいし。──別に怒ってるわけじゃない。それに、世の中は弱肉強食だ。なら、強い奴が勝ち残るのは必然だ。別に謝る必要はないし」


「──本当に、ごめんなさい……私の、私のせいで」


「じゃ、じゃあ取りあえず今日の所は解散ってことで……」


 険悪になっているわけではないが、これ以上は当人たちの問題なのでシルヴィアが介入する必要はないだろう。


 それに──。



「どう思いますか? ナルシアさん」


「どうって……ああ、シルヴィアとあの子の相性の問題? それなら、間違いなく最高よ。心配する必要は皆無だわ」


「ナルシアさん! なんでそんなことを心配するんですか!」


「だって、シルヴィアの事が心配なのよ……将来、貴方が友人を作れるか、もしくは恋人を……」


「いい加減にしてください! 私が聞きたいのは、ユキって子の能力です!」


 そのために修練を中断してここまで来たのだ。分からないでは済ませない。


「ま、冗談はそこまでにして。──そうね。私も実物を見るのは初めてだったから何とも言えないんだけど……正直、あの願いは歪んでるわ」


「歪んでる……?」


 ナルシアはこう見えて、『オラリオン』については詳しいところがある。


 その彼女が発した言葉。歪んでいる。


 それはどういうことだろうか。


「ええ。まるで、あの世界は人を隔絶するような空間だわ。何もかもが自らの意のままに操ることが出来て、尚且つ自らの容姿にすら及ぶほどの強大なもの。自分以外を排除するために作られた世界ね」


「確かに、そうですね。天まで伸びる樹氷は、発動したユキ自身が自由に操っていましたから。壊したり、補充したり」


 だが、気になることはあり過ぎて困る。


 確かにあの力は強すぎる。いっそ、人が持つには相応しくない程に。


 大魔法と同等でありながら、しかし消費効率だけは魔法よりもいいため、あの世界が消えるには自らの意志、もしくは使用者が気絶するなどでしかありえない。


 ほぼ無限であの世界に居続けることが出来るのだ。


 今回は、本気を出す前にあちらの方が正気に戻ったために無事で済んだが、次彼女とやり合って勝てる自信はない。


 それほどまでに固有の空間を生み出す能力は強いのだ。


 しかし、逆にそれは仲間と戦う際にはあまり効果を発揮しない。


 個人であるからこそ、最高の効果を発揮するのが固有の空間を生み出す力だと覚えておけばいい。


「それで? 他に聞きたいことは?」


「……何にもないです。ありがとうございました。急な押しかけに対応してくださって」


「いいのよ。シルヴィアと私の仲じゃない。──あ、あと、一つだけ警告しておくわね」


「警告──?」


「ええ。私が視た予知よ」


 ナルシアの本領──占いだ。


 占い──などと言われれば、当たっているのか当たっていないのか、分からない所があるが、ナルシアのそれは、普通の占い師の占いを遥かに凌駕する。


 むしろ、未来予知と言っていいレベルだ。


「明日。気を付けなさい。私は別件があるから、行けないけど……貴女にとって、災難が訪れる。それは、とても簡単かもしれないし、とても難しいかもしれない。だけど、忘れないで。今の貴女は、一人ではないことを」


「──ほんとうに、ナルシアさんの占いって実感が湧きます」


 ナルシアからのありがたい占いを頂戴し、彼女の部屋から出て行く。


 ──本当に気を引き締めなければならない。


 だって、ナルシアの占いが外れたことなど、シルヴィアは一度たりとも見た事がない。


 それは、不幸であるほどに。外れることはあり得ない。彼女が予見したことは、絶対の確率で訪れてしまう。


 そのせいで、前に住んでいた場所では気味悪がられたというのを、シルヴィアは知っている。


 ナルシアからの警告を頭の隅に留め、今日の所は部屋へと戻るのだった。



























 そして、シルヴィアは。


 ナルシアが言っていたことは正しかったのだということを悟る。


「シルヴィア! まずいぞ……魔獣が出やがった……!」


「どういうこと……ですか?」


「詳しいことは後で説明する! 今すぐに143期の連中に召集をかけろ! 新人には悪いが……あいつらを実践に駆り出す」


「わ、分かりました!」


 ラクロスの言葉通りに、シルヴィアは143期を呼びに行く。


 ラクロスは、空を見つめて。ただとある男のことを思い返す。


「何が、起こっていやがる……誰だ、裏で手を引いてやがんのは……」


 そして、王都の地下に張り巡らされている水道の中で、狂人は嗤う。


 目の前で繰り広げられる惨劇を見て、最高だと言わんばかりに顔を歪める。


「さて。始めましょう。素晴らしい、命の散り際を、見せてください。それこそが、かの御方への供物となるのです。──では、行きなさい」


 そう言って、投入されるのは制御を失った化け物。


 第143期を巻き込んだ最悪の事件は、まだ始まったばかりだ。

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