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report.6

 シルヴィアの提案は比較的名案であったはずであった。


 だが、そう忘れてはならない事情があった。


「あの……私、余ってしまったんですけど……どうすれば、いいでしょうか」


 そんな風に躊躇いがちにシルヴィアに話しかけてくるのは一人の少女だった。


 体格、身長、果てには大きく膨らんだその胸。薄い紫色と所々の青色の髪が目元まで覆い隠しているため、顔全体を把握することは叶わないが、相当な美少女であることぐらい容易に想像出来る。


 何かを察したナルシアの手がシルヴィアの肩に置かれるが、無視する。


「あれ、嘘……? でも、確か人数は偶数だったはずじゃあ……?」


 昨日数えた限りでは偶数人だった。ならば人が余るはずはない。


 なら、一体何が起こったというのか。


 だが、ナルシアはそんなの関係ないとばかりにシルヴィアの前に押し出て。


「安心して、ここに一人いるじゃない」


 そう、いるではないか。ここに一人。同じように同年代の友を持たない孤高の戦士(ボッチ)が。


 『英雄』の後継者として、同年代と交友を深めることが叶わなかった少女。いつだって一人で過ごしてきた桃髪の少女。


 二人の視線がシルヴィアに集まり──。


「え、えっと……これ、私が出る流れですか……?」


 結局そんな感じになってしまうのであった。


 

「それじゃあ、私も参加しますので……よろしくお願いします」


 先ほどの少女──ユキと呼ばれる少女と共に彼らの中へと混ざっていく。


 本来であればこんなことはしないのだが、逆に考えればいい。むしろこれは好機だ。未だに全貌の掴めない第143期──その実力を推し量ることが出来うるかもしれないのだ。


 どこのペアと戦うのかというくじ引きを終え、彼女達がぶつかったのは──。


「あの『英雄』の後継者様が相手か! よっしゃ……やってやるぜ!」


「どうでもいいんだけどさ~、俺の足だけは引っ張んないでね。俺の邪魔すんなら……例え誰であろうとぶち殺すから」


 シルヴィアが相手取るのは高身長の青年とやる気に満ち溢れた身長の低い少年だ。正直、油断など出来ない。特にあちらの高身長の方──間違いなく、強い。


 そう確信させる何かを持っている。


「え、えと……大丈夫? 怖いなら、後ろでサポートしててもいいよ?」


「い、いえ……だいじょうぶ、です。──やれます」


 後ろで若干気後れしている少女だが、やはり第143期か。芯は強い。


 そして、審判を行うナルシアが右手を上げて──。


 それが振り下ろされるとともに、裂帛の気合を伴って踏み込んできたのはやる気に満ちた幼き少年だ。圧倒的な瞬発力、爆発力を持ってシルヴィアの間合いへと侵入していく。


(早い……でも、まだ粗い……)


 その速さには目を見張るものがあるものの、シルヴィアと同じぐらいの年齢が原因なのか筋力が足りていない。


「はあっ!!」


 気合と同時に振るわれるのは大剣だ。自分と同じぐらいの背丈がある武器を悠々に振り回す。だが──如何せん甘い。


 シルヴィアはそれを簡単にいなし、少年の能力を見極める作業へと移る。


 そして、違う方向では──。


 高身長の青年──クリストがユキに向かって猛攻を仕掛けていた。


 高身長を生かした高低差の攻撃に、多段ヒットを可能にするような俊敏性。少年には及ばないものの十分に速い部類だ。


 まるで一瞬のうちに二撃でも繰り出されているような感覚に陥らせる。


 だが、特筆すべきはそれらを防いでいるユキの方だ。所々危なっかしいところは見られるものの、それでも防いでいるのは事実だ。


「ふうん、少しは出来るようだけど……でもさ、結局は防戦一方なワケでしょ? つまりは防御しかできないのと同義……はあ、つまんない奴と当たっちゃったよ。だからさ……さっさとどけよ」


 場を底冷えさせる声と共に、連撃の速度は上昇していく。一方ユキも粘ってはいるが、これも時間の問題だろう。


(なら、助けに行くべき……)


 次々と繰り出される少年の太刀筋を避け続け、その結論に達した瞬間。


 シルヴィアは感じ取った。


(──なに、これ。この寒気は……?)


 殺気とも違う何か恐るべきもの。それがこの場に、戦闘場面に蔓延していく。


 その発生源は──。


 そして、またクリストもそれを感じ取っていた。


(なんだ、こいつ……何かが、違う……防戦一方なワケじゃ、ない!?)


 気付いたときにはもう遅い。


 先ほどまで薄い紫だった髪は雪を表すかのように真っ白へと変貌し、彼女の周りが少しずつ凍り始めていく。


 魔法──などでは生温い。五人将たるガイウスともまた違ったそれ。もはや一つしかあるまい。


 『オラリオン』。世界へ、万象へと干渉し、意志を具現化させる人間に許された異能。


 しかも、今回のそれは文字通り桁が違う。身体へ変貌を促し、現実にも多大なる影響を及ぼす力。まるで、上位の精霊に許された魔法──結界のそれと同じだ。


 結界とは、自らの願いだけで作った固有の空間だ。または世界を創造する魔法とも呼べる。その世界の中であれば、何をしようと現実に影響を及ぼすことはあり得ない。


 そのはずなのに──。


(現実にまで侵食してる……? いや、それとも今回は結界を具象化しなかった?)


 これほどまでの『オラリオン』。もはや一線を画していると言ってもいい。ただ疑問が残る。


 ──なぜ、彼女はこれほどまでの願いを……。


 元来、『オラリオン』は人の願いによって左右されるものだ。願望や意志、それらによって『オラリオン』が世界へ干渉する結果が違って来る。


 強力であればあるほど、それは強い願いを秘めていることに他ならないが──。


「な、なんだ……あいつ、大丈夫なのか……?」


 先ほどまで好戦的な笑みを向けていた少年でさえ、その手を止める、いや止めてしまう。


 次第に氷は空気を蝕み、大地を凍らせ、雪の結晶を辺りにもたらす。まるで神秘にすら見えるそれから誰も目を離せない。


「神よ。冷酷であり、無慈悲であり、世界を見捨てたもうた神よ。私は貴方へと告げる──」


(魔法……? いや、違う……まさか、結界──。世界を作り出すための──)


「天を貫く樹氷。数多の世界を凍らせた氷の刃。我に秘められたのはそれのみ──だが、届かせて見せよう。我が悲願──どうか世界の礎と成れ」


(まずい……このままじゃあ……)


 シルヴィアが結界を止めさせるために突貫し──その刹那。


 ついに詠唱は完成する。


永久なる理想郷イモータル・アルカディア

 

それはシルヴィアとクリストを巻き込み、世界を作り変え新たな境地へと至る。


 そこで見たものは、まるで神秘を超越した世界だった。


 空の果てまで伸びる樹氷。辺り一面を覆う氷の大地。


 伝え聞く世界の果て。その先に存在するという誰も知らない未知の世界。そこには大地を覆うほどの氷などがあるらしい。


 誰も見た事はない。だって、世界の果てを超えようとするのならば、それ即ち世界最古の英雄と噂される『龍神』、『魔神』、『剣神』を超えることに繋がるのだから。


「マジかよ……これ、お前、一体何なんだ、よ?」


 言葉すら最後まで言わせてもらえなかった。彼の口が開き切る直前にユキが行動を起こす。


 パリパリと何かが割れるような音を響かせ──しかし次の瞬間にはクリストの横へと入ってくる。


 もう音が追いついてすらいない。証明されてしまった。この世界でなら、彼女はもはや音速を体現できると。


「クソ、が……!」


 対するクリストもユキの剣筋を見てどうにか防ごうと画策しているものの──しかし間に合わない。


 目で追いつくことは出来ても、そこから行動に移すのは困難を極める。これも人間の真理だ。どうしたって、目で見てそこから行動に移すまでロスが生じる。


 ゆえに感じ取ってしまうのだ。目の前の少女には例え何度挑もうと勝ち筋が存在しないということを。


「──まだ、遠い。まだ、届かない」


 立場が逆転してしまっている中、だが少女──ユキはまだまだ先があると言わんばかりに速度が上昇していく。


 ともすれば、シルヴィア並みに。


 で、あれば。もはや狂戦士(バーサーカー)と化している少女を止められる者など一人しかいない。


 彼女と同じような速度──いや、それを上回る速度を誇るシルヴィアしか、この世界において彼女と相対する資格は与えられていない。


 シルヴィアの接近に伴い、天まで届く樹氷が瓦解し──意志を持っているかのように破片がシルヴィアを狙って来る。


 だが、一閃。たったそれだけで無数にあった氷の破片を全て砕き切る。


 自らに妥協を許さず、自らを信じ鍛錬し続けた者にしか辿り着けない領域。あまりにも高レベルな戦いだ。これでは第143期の入る余地など有りはしない。


 大地を踏みしめ、飛来してくる氷を何度も砕き──迫るのは変わり果てた少女。


 この段階にきて、ようやくあちらも脅威と判断したのか、クリストを足蹴りで吹き飛ばしシルヴィアに剣を向けてくる。


 シルヴィアの剣の腹が、彼女の手を狙い──対するユキはシルヴィアの首を根元から断ち切ろうと剣を振り上げ──。


 そうして、決着はつくのであった。

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