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report.4

 シルヴィアが第143期の面々と出会う正に数秒前の出来事。


 王国の南に位置する森林であり、世界樹へと繫がる森。


 あまり人が通らないような場所であるため、王都付近のように道路が整備され明かりを灯す魔法道具があるわけではない。


 あるのは獣道だ。15年前──3000年前の戦争に並ぶとまで称されている最大の戦争。それ以前であれば、どこかの一族が拠点を構えていた場所でもある。


 人など誰もいなくなったその場所で、全身に包帯を巻いた男性はただ嗤っていた。


 彼の視線の先にあるのは──化け物。体の半分以上を失いながらも蠢く魔獣を超えた魔獣。


 顔すら何かに蝕まれているその化け物で、唯一確認出来るのはサソリのような尾だけだ。


 あまりの醜悪、醜態。化け物すら容易に超えるその異形を見て、男性はもう一度口角を吊り上げる。


「さてさて、かの女王が残した負の遺産。やはり今の技術……というか、女王でなければ再現は不可能です、か」


 世界を飲み込む悪の女王。人間が生き永らえるためだけに悪に仕立て上げられた悲しき女性。


「まあ……今はこれでいいでしょう。まだ鍵が足らない」


 今確認出来ている鍵の存在は三つ。いつ現れるかも分からない四つ目の鍵。それが表ざたにならない限り、魔族側にも動く気はない。


「取りあえずは、挨拶にでも行きますかねえ? ──そう、まずは小手調べ。私がいない間にどれだけの誤差が増えたのか。期待してかかればいいのか、そこは分かりませんが……楽しみにしていましょう。アリサの願いを受け継いだ子よ」


 そうして──男性は闇夜に紛れていった。
















 そして、その数秒後。


 シルヴィアはまさに瀬戸際に立っているかのような気分だった。


 あの騎士団長をしてやりたくないと態度で示した第143期。その面倒な面子が今ここに集結しているのだ。


 正直言って帰りたい。物凄く、さっさとこの場から退室してしまいたい。


 とはいえ、もはやそれが出来る段階はとっくに越してしまっている。ここに来た時点で彼らと……一蓮托生、なのだ。


 全員の視線が一斉にシルヴィアに集まる中、コケてしまわないように足元に細心の注意を払い彼らの前へと歩いていく。


 最終的にやらかさないまま彼らの正面へと立つ。


 彼らからすれば何事だと思うだろう。自分達よりも圧倒的に背の低いような人間が、彼らの指導役として任命されたのだから。


 『英雄』の後継者だとしても、実物のシルヴィアを見た事のある人間など限られているのだ。


 つまり、彼らがシルヴィアを『英雄』の後継者として認知することは難しいわけで──。


「おお! すっげえ! 本物だよ、本物の『英雄』の後継者だよ!」


「こんなにちっちゃ……げふん」


「何でもいいからさっさと始めてくれないかな~」


 なんかもう滅茶苦茶だった。四方八方から珍妙な物を見るように集まってくる人だかり。しかもそれがむさ苦しい男ばかりなのだから笑えない。


 というか、もう既にこの時点で手に負えていない。


 そんな現実に押しつぶされそうになるも、どうにか堪え。


「え、えーと、皆さん。配置に戻ってください。今から挨拶しますので……」


 ともすれば懇願。今のシルヴィアの身長は150行くか行かないかだ。一目見れば幼女にだって見えるかもしれない。そんな少女の願いを無下にするなどありえない──という雰囲気が伝わり、瞬時に彼らは配置へと戻る。


 それはもう、完璧な感じで。


異様な雰囲気に包まれたまま、シルヴィアは顔合わせを終えるのだった。
























 そして、その夜。


 王城において地下に存在する封印の間。地上の光など届きやしないその世界にて、乱雑に整えられた金髪を気にする影があった。


 ダリウス・イリアル。イリアル王国の王にして賢人としても名高いその人は、ただ冷たさを写した鉄の部屋に用意された錆びた椅子に座っていた。


「全く、それさぁ、王サマが座るような椅子じゃないよね?」


「王だからと言って何かが変わるわけではない。むしろそんな区別などなくなってしまえばいいのだ」


 そんな彼の王様らしからぬ態度に横やりを入れたのは、水色の髪を三つ編みにしているメリルだ。とはいえ、彼女も彼女で同じような椅子に座っているため説得力など有りはしない。


「うーむ、めんどくさいねえ……まあ、ボクも所詮は貴族の端くれだったからね。君の考えも分からないわけでもない」


 『賢者』メリル・アーノルド。魔術において隣に出る者はいないほどの名家だ。だが、それは3000年前の威光であり、今は存在していない。


 彼女はその名家の中でも堅苦しい思いをしていたというのを何度か聞いたことがある。


「それにしては反応が些か悪いな。やはり過去、現実、未来──時間軸に囚われないお前にとって過去のことなど思い出すに値しないものなのか?」


「いいや? むしろ後悔の念が尽きないさ。こればっかりは何千年経とうと変わらない。いっそのこと、体がさっさと朽ちてくれればいいんだけど……どうにもそれは許してはくれないらしい」


 『賢者』としてこの世界に留まり続けなければならない責務。彼女もまた3000年前の犠牲者でしかない。


 そして、地下室の扉が乱雑に開け放たれ──ずけずけと入ってきたのは茶髪の男性だ。


「遅かったな、ダンテ」


「あ? ああ、悪いな。寝坊したわ」


 『大英雄』ダンテ・ウォル・アルタイテ。国を代表する伝説の英雄。


 そしてこれを持って全員が揃う。


 王国の国王、ダリウス。『賢者』メリル。『大英雄』ダンテ。まさしくトップたちが集まる会合だ。


「そんでだが……お前の言った通りだった。前に探索しに行った場所──エルベスト森林。あそこにゃ……化け物の残骸があった」


 そう言って簡易な机に置いたのは、どす黒い何かだ。何かの部位のように映るが、正直真偽は定かではない。


「メリル。この残骸に見覚えは? これはかの女王が残した遺産か?」


 3000年前の大戦。そこでいなくなったはずの魔族の王だが、最悪の残り物を現世に残していった。


 ──魔獣を超えた魔獣。人を殺すために在る魔獣とは違い、明確な知恵を持つ悪魔。現在確認されている三大魔獣とはまた違った生物達。


 魔獣の基本的なスペックを軽く凌駕し、三大魔獣にすら匹敵するとされている化け物。実際には滅びたはずの遺影だ。


「──。うん、分からない。というよりかは君の方が分かると思うけど……でもまあ、言えるのは完成形じゃない」


「つまりは、完成形があったと?」


「ああ。三大魔獣。あれなんかがいい例だね。知恵を持った魔獣を超えた魔獣。かの存在の確立を持って、魔獣を超えた魔獣なんてもののの研究および開発は終わった……はずだからね」


 それを聞いて、沈黙を貫いていたダリウスが口を開く。


「商人国との共闘より数年、か。その間警戒は怠っていないが……これでは、先にこちらがどうにかなってしまいそうだな」


「確かにね。隣も隣で災難だっただろうさ。何せ、有望な王子サマが魔族に与していて、尚且つ今は昏睡状態にあるんだから」


 ローズが五人将に任命されるようになった事件。その際、危険を感じ取ったダリウスが彼らに呼びかけ実現したのがこの会議だ。


 魔族に動きがあれば、即座に集まるようにはしているがあまりにも情報が少なすぎるのが問題だ。


「でもまあ、安心はしてもいいだろうな。──あいつらの狙いには、まだ鍵が足りてねえ。だから、まあ。アリスちゃんに関してはまだ当面大丈夫だ」


「そうか……ならば、いい」


「──とはいえ、安心など到底できるものではない。何せ、相手は手札が隠されている状態だ。どんな相手が指揮を執り、行動を開始しているのか。──正直、この件については思い当たる節が一つだけあるんだけどね」


 鍵がない以上、魔族が動くことはあり得ない。魔族の最高幹部を欠いた状態で戦うほど愚かではないはずだ。


「『冥王の眷属』。かの女王が自ずから眷属にした器。それの登場がない限りは、あいつらは動かない。であれば、考えられる推測は一つしかないな」


 ダンテもまた、メリルと同じ推論に辿り着く。


「ああ、今回の魔族騒ぎ。恐らくだけど、裏で糸を引いているのは人間だ」


「裏切り者であるのか、それとも人間より逸脱した怪物であるのか。──どちらにせよ、面倒な議題になりそうだな」


 ただダリウスは心底めんどくさそうに呟いて──会議を終えるのだった。

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