report.3
そして、シルヴィアはナルシアの所に来ていた。
無論、親交を深めるためなどではなく単なる愚痴だ。
主にシルヴィアに全てを任せたラクロスに対してのだが。
「それで、結局やることになったの? はあ、全く……あの人も大人げないわね……大方シルヴィアが構ってくれないから寂しくなったんでしょうけど」
「もうそういう冗談はよしてください……それよりもどうしましょう。私が見た限りだとものすごく面倒そうなんですけど……」
「シルヴィアもシルヴィアで大分感情的よ……まあ、今回については同情するしかないわ」
シルヴィアが今回押し付けられた教官。その第143期だが、既に悪評が王都内にて広まりつつあるのだ。
正直に言おう。絶対に受け持ちたくはない。
ラクロスは自らに与えられた任務は絶対に放棄しない。そして後輩は全力で愛でるタイプだ。シルヴィアの時も例外ではなかった。
そのラクロスが尻尾を巻いて逃げ帰った。その事実がシルヴィアにとってあまりにも重い。
「大丈夫よ、シルヴィア」
「……! まさかナルシアさんも──」
「何かあったら全力で慰めてあげるから」
「──」
もう、ほんとに泣いてもいいんじゃないだろうか。どうしてこうシルヴィアの周りには特別個性が強い者達しかいないのだろう。
「とまあ、おふざけはこの程度にしておいて。──実は私も補佐として配属されちゃったのよねえ……ああ、嫌ねえ……全く」
「ナルシアさんも本音飛び出ちゃってますよ……」
そんなこんなで女二人。たまには愚痴でも言い合いたかった気分だった。
まさかのナルシアの部屋にて一夜を過ごした後、寝癖の素晴らしいナルシアを部屋に置いてけぼりにして廊下を歩いていた。
シルヴィアにとって忘れられない一日。今日からシルヴィアは最高に面倒そうな第143期に配属され、今から挨拶に行くところだった。
だが──。
「なんで今日はこんなにも慌ただしいんだろう……?」
今騎士達が抱えている問題自体はほとんどないはずだ。だからこそ、昨日まではいっそ静かなほどであったというのになぜか今日は騎士達や王城に仕えている者達が慌ただしい。
まるで、何か問題が発生したとでも言うように──。
「すいません。あの、今日忙しいようですけど……何かあったんですか……?」
結局気になり、忙しなく廊下を移動する騎士に話しかける。とはいえ、シルヴィアはまがりなりにも『英雄』の後継者だ。ゆえに──。
「し、シルヴィア様!? お、おはようございます、シルヴィア様!」
すぐさま話しかけてきた桃髪の少女に敬礼。こんなんになってしまう。
「あ、あの……そ、それより、今日何かあったかを……」
「は、はい。その、お恥ずかしいお話なのですが……新人二人が地形を変えるほどの戦いをやってしまったので……その後処理に追われてると言いますか……」
シルヴィアも一応耳には挟んでいた事だった。マーリンが昨年あたりに連れてきた青髪の少女と、ガイウスが数年前より引き取っている赤髪の少年。
彼らは騎士の中でも特別な任務を与えられていた。魔獣専門の部隊とでも呼べばいいだろうか。
その二人が大喧嘩をしたとのことだが、正直にわかに信じがたい事だった。五人将のように圧倒的な力を持つ者達ですらないのに、それほどの被害を生み出せるなど。
「そうですか……頑張ってください」
地形を変えるほどの大喧嘩だ。後処理は大変、どころでは済まないだろう。恐らくは全騎士が処理に駆り出されること間違いなしだ。
そんな彼らに同情しつつ、あまり気の乗らない場所に進む。
その途中。
「あ、あの! もしかして……シルヴィア様ですか?」
「えーと、どなたですか……?」
前から歩いてきた青年──その肩付近に張り付いているのは第143期の刺繍だ──に突然話しかけられる。
体格は中肉中背、というよりはむしろ体格はいい方ではある。見ない顔だったので、恐らくは第143期の人間だ。
だが、シルヴィアには甚だ疑問しかない。第143期、いわゆる曲者揃いの集団にこんな普通そうな青年が居るのかと。
騎士達の中でも個性が前面に押し出ているような者達の中に、このような普通を突き詰めたような人間が居てもいいのだろうか、と。
「あ、えと、すいません……僕は、ラスと言います。第143期の見習い騎士です」
「ラス、さん……」
シルヴィアは前にも言ったかもしれないが、見知らぬ人と話すのは得意ではない。
喋り慣れてない感じが滲み出ていて、ナルシアを始めとした人達からは好評だが、正直シルヴィアは恥ずかしさしか感じない。
ゆえに声とかひっくり返ったら、当分は王城に来れないレベルになる。それゆえ、人と話すことが少なくなるという悪循環に陥っているのだ。
「ああ、もう時間になる……そ、それじゃあ、僕は行かなきゃならないんで……そ、その……時間取らせてしまって申し訳ございませんでした!」
なぜか早口で捲し立て、赤面しながら去っていく青年ラス。当然、人付き合いが上手くないシルヴィアなどには真意など分かるはずもなく──。
結局彼の行動に首を傾げたまま、シルヴィアは歩き出す。
そうして──。
「はあ……私、大丈夫かなあ……?」
第143期が集まる空間──そこでシルヴィアが見たのは彼らが思い思いに過ごしている状況だった。




