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report.final ~夜空へと希う想い~

「う……?」


 シルヴィアが目を覚ましたのは、木材の家などではなく、見覚えのある天井だった。


 それはつい先日まで、シルヴィアが寝泊まりしていた場所に他ならない。


 ──そう、ここは、王城だ。


 それだけで、理解した。


 もう全ては、終わってしまった後なのだと。


 ゆっくりと、部屋全体に首を回す。ただし、立ち上がることは出来ない。


 首を自分の体に向けてみれば、包帯が所々──などでは済まないぐらいに巻かれてしまっている。


 恐らく、ローズとの戦闘でこっぴどくやられたのだろう。こんな状態になるまで、必死に抵抗した。


 だけど、及ばなかった。


 及ぶはずもなかった。


 結局そんな力しかない自分に、嫌気がさす。


 ──もっと、力があれば。シルヴィアに、もっと強さがあれば。もしかすれば間に合ったかもしれない。


 とはいえ、シルヴィアだって分かっていることだ。


 あのまま、ローズに勝利したところで、どうしようもないということを。第143期は呪いを受けていた。それはシルヴィアも例外ではない。


 あの場には解呪できる者は誰もいなかった。ナルシアがいれば、解呪できたかもしれないが、結局は結果論でしかない。


 つまり、彼らを死なせたのは自分の判断だ。自分の軽率な判断のせいで、彼らを死なせてしまった。


「か、み……?」


 そして、シルヴィアは気づいた。シルヴィアの隣にあった机に、置かれている小さな紙の切れ端。


 そこには、ラクロスのものと思しき字で書かれていて。


「今回の、事件は……予想もしない、出来事であり、その場の指揮官であるシルヴィア・アレクシアを責め立てることは出来ない。むしろ、その中でも最善を尽くしたことは、紛れもない戦功である……これって、」


 そこにあったのは、恐らくは今回の報告書だ。今回の、第143期に起きた、事件に関するものだ。


 きっと、シルヴィアを庇おうとしてこれを書いたのかもしれない。


 今回の失態は、きっと貴族やシルヴィアを快く思っていない者たちに、付け入る隙を与えてしまう。だからこその、ラクロスの恩情だ。


「しかし、将来有望であった第143期の全員を死なせたことに対しては……?」


 思わず、読み上げる声が止まってしまった。紙切れを持つ手が、抑えようもなく震える。


 ──分かっていた。分かり切っていた事だった。


 あの状況で、生存者がいることを期待する方がおかしい。


 なのに、なのに──!


 ──どうして、こんなにも、涙が止まらないのだろう。


 拭っても、拭っても、拭っても、その涙が止まることはあり得ない。


 涙で視界がぼやけ、手に持っていた紙の切れ端に書かれている文字すら読むことが出来ない。


「ぅ、ぁ……」


 ──止まらない。止まらない。涙が枯れ果てることはない。


 初めてだった。こんな、涙を流すことは、なかった。生まれて初めて、涙を流している。


 ──最初、シルヴィアが憧れた偉大なる父親。彼が誰をも救った時に見せるその笑顔に、憧れた。


 自分も、彼のようになりたい、そう願った。届くはずのない星に手を伸ばすと、そう決めたはずだった。


 だが、結果がこれだ。何も救えず、救いたいと思ったモノすらその手から零れた。


 ──溢れでる涙は、シルヴィアへと残酷な現実を突きつけ、分不相応な願いを洗い去っていく。


 彼らと過ごした世界。全てが輝いて見えた、世界。だが、それは、色を失いセピア色へと変化していくのだった。


























「こんなところに人なんて、珍しいものだ。それと……ああ、すまない。そんなことよりも、君の治療の方が先だな。少し待っていてほしい、とはいえ、私に出来ることなど限られているが」


「──?」


「ああ、私には治癒魔法が使えないんだ。だから、少々の荒療治になってしまう。だが、これが一番の方法だと割り切って、処理を施させてもらう」


「──」


「取りあえずだが、重要な器官も、体の呪いも、何もかも治っているだろう。ここから出るときには、以前よりも上手く体を扱えるはずだ。──だが、いつ目覚めるかは分からない。なにせ、こんな場所だ。誰が助けに来てくれるか、予想なんてつかない」


「──」


「でも、これが最善だ。君を失うわけにはいかないのでね」


「──あ、ぁ」


「私か? そうだな、君たちの間での名称は……ああ、『時の精霊』、とでも言えば分かるだろうか」


「──」


「では、一応別れの挨拶をしておこう。フライクには、望まない選択を与えてしまったみたいだが……君を救えたのだ。良しとしよう。──さようなら、ユキ・ネルエス、いや、ユキ・アーノルド。君の人生がよきものとなるよう、祈っている」


「──」


「いずれ、また会おう。いつか、世界が崩壊の間際に瀕するとき、君は眠りから覚める。その時、改めて君と話すことにする。──と、もう、聞いていないか。さて、これから、どうなるか。果たして、世界はよき方向へと進むのか……もしくは、また破滅への道のりを辿るのか。ここが分岐点であったと、そう言わせてくれよ、クロノス」






















 夜空の星が、輝いていた。


 奇しくも、あの時のように、雲一つない星空が見える。


 ──あれから、二年が経った。あの時の傷は、癒えたと言えば癒えたのだろう。


 あの事件以後、数か月はずっと夢にうなされていた記憶がある。


 だが、時の流れとは残酷だ。悲しみも、苦しみも、思い出も何もかも、薄れていく。鮮明に残っていたはずの記憶は、時間が経つにつれ薄くなってしまう。


 今だって、そうだ。あの時の事を思い出しても、遠い過去の記憶だと片付けてしまう自分がいる。


「あと、王都まで……十分、ぐらいかな」


 シルヴィアは今地方から王都に向かっている所だ。あの事件以降、ラクロスの手引きにより何とか騎士の位を剥奪されなかったものの、失ったものが多すぎた。


 若い命。そして、なにより、信頼だ。シルヴィアを快く思っていない者たちに付け入る隙を与え、一時期は失踪させられそうになったこともあった。


 間違いなく、『英雄』の後継者の名は地に堕ちた。


 それを回復させようとは、別に思っていなかった。だって、『英雄』の名称はシルヴィアには重すぎる。


 だから、今のままでいい。『英雄』という名に縛られず、相応しい行動を求められない今が、一番いい。


 期待されて、失望されて、傷つくよりはマシだ。


 ゆえに、『英雄』としての名を広めないために、今こうして雑用をやっているというわけだ。


 地方より寄せられた魔獣の発見報告。シルヴィアはそれが届けられる度に、自らの家から王都まで行き、そこから向かうといった非効率的な作業を繰り返しているのだ。


 ──最初は、こういうことがしたかったわけではなかった。


 ダンテのように絶対の強さを持って、人々を笑顔にしたかった。


 ──でも、出来るわけがなかったのだ。


 少女には、誰かを救うことなんて出来なかった。


 馬車から見える星空に、手を伸ばす。


 今までやってきたそれ。ダンテと言う星に追いつこうと歩んできた人生。


 だけど、それは無駄だったから。


「私、は……誰かを、助けられる、人になりたかったなあ……」


 そして、流星が夜の空を駆け抜けて──。


 彼女の止まっていた時間は、動き出す。



 ~To be continued original story~

そういうわけで、完結です。

ちなみに最後のシーンは本編のプロローグに繋がっていますので、是非見ていただければと。


英語の所間違ってないよね……?

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