report.1
人間と獣人を含んだ人族の歴史で言えば2997年。イリアル王国が建国してから約3000年が経とうとしていた。
シルヴィアは親であるダンテに従い、王国の各地を飛び回っていた。
だが、今回王都に立ち寄った際に王より勅命を賜ったのだ。
──最近見習い騎士になった第143期。彼らに騎士としての在り方、剣術。それらを彼らに教える立場。つまり、教官として配属されることになったのだ。
「師匠。今回の王様の手紙なんですけど……どうしましょう? 従った方がいいですよね、一応……」
「おいおい、シルヴィよ。お前もあいつの扱いが雑になってきたな……まあ、今回は従った方がいいな。それに……今回は俺一人でやりたいこともあるからな……」
王都に戻る前。王都へと続く道沿いに位置する村の宿屋にて、シルヴィアとダンテは王都から発送された手紙を広げて内容を確認していたのだ。
シルヴィアは取りあえず手紙をベッドに置くと、まず自らが羽織っていた外套──主に桃髪が見つかると騒ぎになるので──を壁にかける。
そのままシルヴィアの荷物と、シルヴィアが担いでいたダンテの荷物を下へ置き既に寝る準備を始めていたダンテへと語り掛ける。
「と言っても、師匠は私がいなくて大丈夫ですか? 食事とか色々問題があると思うんですけど……」
「いいんだよ。俺は大丈夫だ。なあに、シルヴィアと一緒に各地を回る前は一人でやってたことだしな」
ダンテは古ぼけたマフラーを荷物の上に投げ捨て、外套をその辺に脱ぎ捨てながらシルヴィアに返答する。
こう見えて、ダンテは『大英雄』だ。王国を代表する『英雄』であり、人族最強の存在だ。
だが、実際実生活では自堕落そのものと言ってもいい。シルヴィアが来るまではどうやって生活していたかは分からないが、少なくとも初日に蛇を持ってきたことからあまり信用してはいないのだが。
「うーん……でも、あんまり人と接するの得意じゃないんですよね……」
これまでダンテに付き添って各地を回るような生活を過ごしていたため、同年代との接触は数えるしかなかった。
ゆえにあまり人と接することが得意、というか既に忌避している節があったのだ。
「なっ……そうか、俺のせいで……シルヴィはボッチ人生を歩むことになってしまうのか……!?」
「し、師匠!? ボッチは言い過ぎです! それにナルシアさんとか一応友達……のような人は居ます!」
一応顔を赤くして反論するのだが、如何せんシルヴィアにもあまり友達と呼べるような気軽な存在がいないので説得力は皆無でしかない。
憤慨するシルヴィアを適当にあしらいつつ、ダンテはもう一度王都より送られてきた手紙を拝見する。
シルヴィアの話を全く聞こうともしないダンテに、頬を膨らませつつ今日の所は布団に入るのだった。
「それで、師匠。王城に行った方がいいですかね」
一夜明け、シルヴィアとダンテは王都に帰ってきていた。
様々な人種が行き交い、賑わう王都だが流石に外套を纏っている人物は珍しいのか、先ほどから視線が痛いのだが毎度の事なので気にする必要はない。
「そうだな……この国は珍しく王城に見習い騎士を入れるからな……全くなに考えてんだ、あいつもよお……」
「師匠。国王をあいつ呼ばわりしないでください。もしも誰かにでも聞かれれば確実に牢屋に入れられますよ……」
シルヴィアも注意を促すが、ダンテは全く聞き入れようとはしない。
「それより、早く行った方がいいぜ……どうせ、見習い騎士なんぞ見込みのねえくそったれた奴らだろうからよ……」
「才能なんて関係ないですよ。必要なのは気概と精神力と体力だけですから」
「やっぱりシルヴィって脳筋思考だよな……」
誰のせいでそうなったのかはきっと言うまでもないだろう。
ダンテと一旦別れ、シルヴィアが向かったのは王城だ。
そして、王城の城門前で。
「シルヴィア? なんだ、こっちに帰ってきてたのね。それなら真っ先に来てくれればいいのに」
「ナルシアさん……! ええと、いや、その……さっき来たばっかりなので……それで……」
城門に居るはずの白い鎧を纏った騎士は居らず、代わりに居たのは魔術師のようなローブを被りその手に水晶玉を抱えた女性──ナルシアだ。
王直属の魔法士であり、シルヴィアは戦う姿を見たわけではないので何とも言えないのだが凄腕だというのは聞き及んでいる。
「それで? 今年は14歳だったかしら? それなり育ってきてるわね……胸は……まあ、期待しないでおくわ」
「ナルシアさん! そう言うのいいですから! ──それより、ナルシアさんはどうしてここに?」
最初に会ったら必ず言われる内容だ。最近は胸の方も聞いてくるようになったが。
とはいえ、子供の成長は早いと言う。シルヴィアとしてもこの数か月間で相当伸びたことを自覚しているのでそう言われて悪い気分ではない。
「シルヴィアがここに来るのを待ってたのよ。──騎士団長殿がお呼びよ」
騎士団長。この国の五人将を抜けば、この国のトップと言ってもいい存在だ。騎士に任命されてからというものの、度々シルヴィアを気にかけてくれる人物でもある。
あちらとしてはどこか娘を相手しているような気分でもあるのかもしれないが。
「──分かりました。すぐに行きます」
ナルシアの伝言を聞き、シルヴィアが向かうのはラクロスが居るはずの場所だ。
今この時間であれば、ラクロスは新人の指導を行っている所だが……。
「きっさまらああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
怒号が王城内に響き渡った。勿論、シルヴィアが探していたラクロスの声だ。
今聞こえた方向、王城内で反射する壁。全てを一瞬で計算しつくし、彼女が辿り着いたのは、王城の中庭だった。
そしてシルヴィアが見たものとは──。
「ラクロス、さん……?」
「シルヴィアか……! 頼む、こいつらに喝を入れてやってくれ……」
兜と鎧を外し、長年の責務で負った傷を惜しげもなく晒し、庭にただへたり込んでいるラクロス。そして、その脇。
全員が全員、群れを成すことはせず、思うがままに剣を振るったり喋ったりしている騎士達がいた。
──曲者揃いの第143期。シルヴィアにとって最もかけがえのない時間が今始まる。




