表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/46

09.猫と言葉

 「単語……十個くらいは、わかってたみたいですね」

 和坂(かにがさか)さんは、思い出しながら、指折り数えて答えた。


 俺も言いながら数える。

 「うちのも、そのくらいですね。自分の名前、おいで、だっこ、ブラシ、ごはん、カリカリ、缶詰、獣医(センセイ)、病院、注射、コラッ!」

 黒江さんは、最後の一言でビクリと身を(すく)ませた。


 「あ、あの、黒江さん、俺、怒ってませんから」

 「そうですか。『コラッ!』はいつも、双羽(ふたば)さんに言われておりますので、つい」


 この使い魔は人語を理解できる癖に、いつも、近衛騎士に叱られるようなことをしているのか。

 何やらかしたのか気にはなるが、聞いてはいけないような気がしたので、質問を変えてみた。


 「黒江さんって、人間の言葉、ちゃんとわかってますよね?」

 「はい。日之本語、湖北語、湖南語、湖東語、共通語、東方語、ディアファナンテ語の七カ国語がわかります。」

 俺より語学力が高い。


 でも、ちゃんとわかってるかと言うと、微妙に違う気がする。さっきも、「電話番」を命じられて、電話機を監視していた。


 七カ国語を解する魔法生物が、猫飼いに質問した。

 「お二人は何故、猫が人語を理解していると思われたのですか?」

 「単語を聞いた時の反応が全然違うんです」

 和坂(かにがさか)さんの答えを、俺が補足する。

 「猫の好きな言葉が聞こえたら、超笑顔で尻尾をピンと立てて、こっちに駆け寄って来るけど、不吉な単語が聞こえたら、全力で逃げます」


 「さっきも言いましたけど、うちのコは『お風呂』って聞いたら、逃げ回ってました」

 「俺がさっき挙げた単語、前半は好きな言葉、『獣医(センセイ)』以降は不吉な単語です」

 「うちの犬も大体、そんな感じですよ」


 「名を呼ばれると嬉しいものなのですか?」

 魔法使いの使い魔は、首を傾げた。


 「名前は中立ワードですね」

 「眠い時や、気分が乗らない時は、寝転がったまま、耳をこっち向けて、尻尾の先だけパタパタさせて返事します」

 「『あー、はいはい、聞いてますよー』みたいな感じで」

 簡潔な答えを俺が補足すると、和坂(かにがさか)さんは、手を猫の尻尾のように動かして、追加した。


 犬飼いの国包(くにかね)も話に加わる。

 「犬の反応は、名前を呼んだ人によりますね」

 「犬は、誰が呼んだかを重視するのですか?」

 「そんな感じです。俺より母さんに呼ばれた時の方が、尻尾の振り方が激しいし、顔も嬉しそうだし……」

 黒江さんは、本当の姿にかなり猫要素が入っているので、犬の気持ちはわからないのだろう。


 この執事形態の「黒江」さんと、猫形態の「クロ」は、いずれも本当の姿ではない。

 俺は、黒江さんの本当の姿を、魔術概論の教科書に載っていた写真でしか知らない。生で見たいような、怖いから止めておきたいような、微妙な気持ちになる写真だった。


 大分慣れてきたのか、国包(くにかね)が言う。

 「黒江さんは、巴先生に呼ばれたら、いつも超嬉しそうですよね」


 「はい。ご主人様に名を呼ばれ、ご命令を(うけたまわ)るのが、待ち遠しゅうございますので」

 黒江さんはイイ笑顔で答えた。

 使い魔である黒江さんの真名(まな)は、(あるじ)である巴准教授だけが知っている。

 巴准教授は普段、「黒江」や「クロ」などの呼称で読んでいる。真名でなくとも、命令するのに支障はないらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
関連項目。巴准教授、黒江、双羽が登場する話。
読まなくても支障はありませんが、関係性はわかりやすくなります。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
野茨の血族ポテ子も↓と同じシーンに登場。
碩学の無能力者ポテ子も↑と同じシーンに登場
汚屋敷の兄妹三人が大掃除を手伝う
野茨の環シリーズ 設定資料用語解説など
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ