42.猫のジャンプ台
「ホントに好きなのね」
和坂さんが嘆息する。
黒江さんと国包が、なんで? って顔で女子大生を見た。
「猫って、イヤなことされたら、物陰から出て来なくなるの。だから、三田君ちのにゃんこは、ホントに好きなのよ。投げられるのが」
元猫飼いの女子大生は、ちょっと嬉しそうに説明した。
使い魔と犬飼いが、信じられないものを見る目で、猫派二人を見る。
俺は二人の視線を受け止め、努めて冷静に説明を続けた。
「うん、まぁ、五キロの米袋を延々と投げ続けるのと同じ重労働です。奴が飽きる前に、人間がへとへとになって音を上げます」
「あぁ、うん……どうするんだ? 倒れるまでやるのか?」
米袋を投げる作業を想像したのか、国包の声が少し同情を帯びている。
俺は首を横に振った。
「いや、『もうおしまい、今日はもうおしまい』って言っても、『もっとするのーッ!』って俺の体に爪立ててよじ登って来て、俺の頭を踏み台にして、自分でジャンプするんだ」
「ジャンプ台なのか……三田……」
「ジャンプ台にされたらな、踏み切りの瞬間に後ろ足の爪が頭に食い込んで、毛が抜けるんだよ。抉られて」
「うわぁあ……」
「だから、俺は布団にダイブして寝転がって、投げる遊びを強制終了するんだ」
途中から、黒江さんを放って国包に熱く語ってしまった。
そっと様子を窺う。
黒江さんは、難しい顔で黙り込んでいた。
「あの……黒江さん? 猫を投げるったって、虐待じゃありませんよ?」
「虐待なのですか?」
「虐待じゃありません。猫が望んで投げられる遊びです」
別の理由で渋面を作っていたらしい。
俺は少し考えて、質問した。
「黒江さん、どうしたんです? 難しい顔して……」
「ふむ。どうすれば、ご主人様に投げていただけるのか、考えていたのです」
「無理!」
「無理ですよ!」
「ダメ! 絶対!」
三人同時に全力で止めた。
さっきも言ったが、猫を投げる遊びは、主に飼い主の腰にダメージが来る重労働だ。
心臓に障碍のある巴先生にできる訳がない。普通にだっこするのが限度だろう。
全否定され、使い魔がしょんぼり俯く。
「あ……あ~……あの、双羽さんに投げてもらうんじゃ、ダメなんですか?」
和坂さんが、代替案を出す。
双羽さんはほっそりした女性だけど、魔法戦士で近衛騎士だから、巴先生よりずっと体力もあるだろう。
これなら、実現の可能性は高そうだ。
「む……双羽さんですか……」
執事姿の使い魔は、困った顔で俺たちを見た。
提案者の和坂さんが代表で質問する。
「何か、不都合でもあるんですか?」
「双羽さんは怖いので、遊んで下さい、などと言うお願いは、致しかねます」
猫形態なら、耳を伏せて尻尾をおなかの下に隠してそうな顔でそう言われ、俺たちは何も言えなくなってしまった。




