表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/46

39.猫のおもちゃ

 なんだか話が逸れてしまった。

 和坂(かにがさか)さんが話を戻すべく、恐る恐る確認する。

 「黒江さんは、普通の猫と同じで……狭いとこが、割と好きなんですよね?」

 「好き……なのでしょうか? よくわかりません」

 「嫌いだったら、タンスと壁の隙間とか、鞄、紙袋、抽斗(ひきだし)、押入れ、段ボール箱……後えーっと、なんせ、自主的にそんな狭いとこに入りませんから」


 俺も、念の為に確認してみる。

 「巴先生は、俺たちがさっき挙げた状況で、黒江さんに『ここに入りなさい』って命令した訳じゃありませんよね?」

 「はい。ご主人様は何も(おっしゃ)いませんでした」


 ……そんな命令出してたら、こっちがびっくりするよ。


 巴先生は、それが猫の習性だってわかってるから、猫成分が入った魔法生物の黒江さんには、何も言わないんじゃないか、と思ったが、本人に言うのは、やめておくことにした。


 代わりに別のことを聞いてみる。

 「黒江さんって、猫形態の時は、猫用のおもちゃで遊んでますよね。楽しいんですか?」

 「はい。この形で遊興に(ふけ)ることは、禁じられております」

 微妙にズレた答えが返ってきたが、まぁいい。


 黒江さんは猫形態の時、床に寝転んで、猫用のおもちゃに咬みついてブン回して放り投げたり、猫キックしたり、やりたい放題していた。


 ……あれが「遊興に(ふけ)る」状態……? 完全に猫じゃないか。って言うか、禁止されなきゃ、この姿でもやんのか。


 「黒江さん、あのおもちゃ、大好きですもんね~」

 元猫飼いの和坂(かにがさか)さんが、にっこり微笑む。普通の猫なら、確かに微笑ましい光景だ。


 普通の猫なら。


 黒江さんもイイ笑顔で返す。

 「はい。ご主人様より(たまわ)りましたネズミは、私の宝物です」


 ネズミ……?


 黒江さんの宝物は、太めのモールみたいな感じで、ちょっと毛足の長い尻尾型のおもちゃだ。しかも、色が緑。

 こんなネズミ、居てたまるか。

 少なくとも、俺の目には、ネズミ型に見えたことがない。


 質問する国包(くにかね)の声が少し震える。

 「黒江さん……あれ、ネズミなんですか?」

 「ネズミですよ」

 黒江さんは、何を当たり前のことを聞くのです? と言いたげな顔で答えたが、国包(くにかね)の目にも、やはりあれはネズミに見えないようだ。

 俺はちょっと安心した。


 黒江さんは、その「宝物」を壊しまくってる。

 俺が知ってるだけでも、最低五つは壊していて、巴先生はその度に、ネット通販で新しいおもちゃを買い与えていた。


 猫用のおもちゃは消耗品だ。

 うちの松太郎も、ちょっと高い羽付きの猫じゃらしを秒殺してくれた。


 それはわかってる。

 わかってるけど、黒江さんの価値観はやっぱり猫だ。


 「三田(さんだ)さんの猫は、ネズミで遊ばないのですか?」

 「ネズミ遊び……うちは田舎ですから、遊びじゃなくて本気の鼠狩りですよ。家で遊ぶおもちゃは、猫じゃらし系が好きですね」

 「ほほう……猫じゃらしですか。それで、どのように遊ぶのですか?」

 他所(よそ)()の猫の遊び方に興味を持ってしまった。


 これ、ひょっとして、巴先生の出費が増えるフラグだろうか。

 俺は、どう言えば、巴先生の懐を痛めずに済むか、少し考えて口を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
関連項目。巴准教授、黒江、双羽が登場する話。
読まなくても支障はありませんが、関係性はわかりやすくなります。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
野茨の血族ポテ子も↓と同じシーンに登場。
碩学の無能力者ポテ子も↑と同じシーンに登場
汚屋敷の兄妹三人が大掃除を手伝う
野茨の環シリーズ 設定資料用語解説など
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ