36.猫の災難
「それに、猫全員がそうするかどうかはわかりません。サンプルは俺の実家の猫と、和坂さんが、昔飼ってた猫の二匹だけですし」
「そうですか。では、他の猫のこたつ内に於ける動向調査を……」
変な方向に勉強熱心な魔法生物だ。
「そこまでしなくていいんじゃないんですか? 大体、巴先生に人間への攻撃は禁止されてるんですよね?」
「猫キックって、手加減してても、ふつーに攻撃ですよ?」
「そもそも、どうやって調べる気だったんですか?」
和坂さん、俺、国包の突っ込みに、黒江さんはいちいち律儀に答えた。
「インターネットで調べようと思っておりましたが、調査の必要はございませんでしたか? 確かに、積極的な攻撃は禁じられておりますが……猫が攻撃の意図を以て蹴ったと言う根拠はなんでしょう? お二人は負傷なさっておりませんよね?」
「いんたーねっとっ?」
「黒江さん、パソコン、使えるんですか?」
「みんながやってるから、自分もやってみるってのはダメですよ」
国包、俺、和坂さんが同時に言った。
……さっきは、パソコンを「自分の地位を脅かす四角い物」呼ばわりしてたクセに。
「はい。ご主人様に検索の仕方を教えていただきました。猫のフリをより一層、本物に近づけるべく、他の猫のすることを真似しようと思っているのですが、いけないことだったのでしょうか?」
……学習能力高いなー
いや、マズい! なんか余計なコト学習しそうで怖いぞ、これ。
ペアレンタルコントロールっつーか、巴先生の監視下でしか、触らせられんだろ……
「本物の猫のすることでも、いけないことはマネしちゃダメです」
「さっきも躾の件で触れましたけど、猫と人間にとって危険なことは、真似しちゃいけませんよ」
「今言ったのは、悪い見本ですから」
国包、和坂さん、俺で必死に止める。
黒江さんのパワーで猫キックしたら、巴先生の足が折れるに決まってる。
「それに、こたつの中に入っても、いいことばっかりじゃありませんよ」
余計なことを教えてしまった気がするので、こたつ内に入る気が失せることも、教えることにした。
「俺の弟、足がすごく臭いんですよ」
「悪臭を放つ足ですか」
渋い声で冷静に返されると、兄として悲しい気持ちになってきた。
「そうです。悪臭を放つ足です。それが、こたつの中に入ってきます」
「ほう……それで、どうなるのです?」
……ほう……じゃねーよ。
「こたつの中は、こたつ布団で外界から隔離された狭い空間です。しかも、暖かい場所です」
「はい」
黒江さんが真剣な表情で、力強く同意する。
「足の悪臭が増幅されます。猫は人間よりも嗅覚が鋭敏なので、悪臭に耐えられず、こたつから這い出てきます」
「それは、災難ですね」
「えぇ。普通レベルの悪臭なら、猫はフレーメン反応を起こして、変な顔になるだけです」
「左様でございますか」
「弟の足は、半端なく臭いんで、猫はおえってなってました」
俺の説明に、和坂さんと国包がドン引きする。
黒江さんは、猫形態なら耳を伏せていただろう表情で、俺を見た。
「ですから、無理してこたつの中に入らなくていいです。巴先生のお膝の上に居てください」
「承知致しました」
俺が与えた注意事項に、魔法生物は畏まって頭を下げた。




