表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/46

34.猫のモラル

 「こたつの上のリモコンを落としていました。それだけなんですけどね、猫の中では何故か、『こたつの上に乗っている物を落とすのは、許されざる大罪』みたいになってたんです」

 「なんだそりゃ?」

 「わからん。……でも、その後も相変わらず、こたつに何も乗っていなければ、人間が見てる前でも堂々とこたつの上に乗るんですよ」

 「下ろしても下ろしても、乗るんですよね」

 和坂(かにがさか)さんがニヤリと笑う。


 俺は頷いて、黒江さんを見た。首を傾げている。

 「猫の中では『何も乗っていないこたつには、乗ってもいい』ことになってたみたいなんです。俺たち家族は、いつでも同じように叱ってるんですけどね」

 「その時だけじゃなくて、みんながお留守の時に、こっそり『物が乗ってるこたつ』に乗ってたんでしょうね」

 俺の言葉を和坂(かにがさか)さんが先回りして言った。


 「うん。だけど、物を落としたら、乗ってたのがバレるから、焦ってたんだろうなぁ……」

 松太郎は、俺の追及を(のが)れるべく、耳を伏せて体を斜めに(ねじ)りながら、肩で畳の上を滑走して逃げて行った。

 俺は、ズザザーッと音を立てて逃げる松太郎を敢えて追わず、見送った。


 ヘンなポーズで逃走を図るくらいビビるんなら、禁止されてることをやんなきゃいいんだ。

 それだけ因果関係がわかるのに、何故そこまでして、こたつに乗りたがるのか。

 そんな訳で、我が家のこたつには、常に何かを乗せることになった。


 黒江さんは、ここまで聞いても話が見えないのか、首を傾げている。


 「つまり、やっていいことと悪いことの基準が、人間と猫では、大きく異なるんですよ!」

 俺が力強く結論を述べると、黒江さんは背筋を伸ばして固まった。


 内容を正しく理解できているかどうかわからないが、続ける。

 「黒江さんは、人間より猫に近い判断をしてるんです」

 黒江さんが息を呑み、琥珀色の瞳が猫のように細くなる。


 ……やっぱり、この魔法生物は猫成分が多い。絶対、原材料に猫を使ったに違いない。


 流石に可哀そうなので、「猫にでもわかることがわかっていない」件については、明言を避けた。

 だが、伝わったらしい。

 「……それは、私が、ご主人様のご命令を、正しく、理解できていない……と、言う…………?」

 黒江さんが蒼白な顔で震える。声がだんだん小さくなって、語尾は消えてしまった。


 残酷なようだが、現状をきちんと理解させなければ、黒江さんのスペックでは、斜め上な解釈のせいで、死者が出かねない。

 巴先生は黒江さんに「人間や鳥や動物を殺傷すること」を禁止している。


 但し、例外として、巴先生や黒江さん自身を守る為に「相手が死なない程度に反撃すること」は許可していた。

 自衛の為の反撃とは言え「本当の姿」準拠のパワーで殴られたら、普通の人間は一撃でミンチになってしまう。


 国包(くにかね)が残念そうに首を振った。

 「ちゃんとわかる時もあるけど、わかってない時もありますね」

 「ま、人間も、猫の言葉を正確に理解できてるわけじゃありませんから、そんな深刻な顔しなくていいですよ」

 「巴先生以外の人……巴先生のご家族や、双羽(ふたば)さんの言うことには、ある程度、従った方がいいんじゃないかなって思いますけど」

 俺がなるべく気楽な調子で言い、和坂(かにがさか)さんがやんわり釘を刺す。


 黒江さんは、信じられないものを見る目で俺たちを見回した。

 「私に、ご主人様以外の人間の命令に従え……とおっしゃるのですか?」


 「さっき言った、双羽さんたちの(しつけ)は、命令じゃありませんけど、従った方が巴先生にとってもいいことなんです。詳しくは、巴先生に確認してください」

 ここであんまり細かい指示を出しても、却って混乱しそうなので、一旦置くことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
関連項目。巴准教授、黒江、双羽が登場する話。
読まなくても支障はありませんが、関係性はわかりやすくなります。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
野茨の血族ポテ子も↓と同じシーンに登場。
碩学の無能力者ポテ子も↑と同じシーンに登場
汚屋敷の兄妹三人が大掃除を手伝う
野茨の環シリーズ 設定資料用語解説など
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ