24.猫の妨害工作
うちの松太郎は、もっと攻撃的に新聞と読書の邪魔をしてくる。
新聞を床やこたつで広げて読むと、さっき和坂さんが言った手段で妨害する。
手に持って読むと、松太郎は、こたつに乗って、反対側から背伸びして新聞のてっぺんに手を掛ける。俺の顔を見たかったのか、新聞によじ登ろうとして体重を掛けた。
当然、新聞はビリビリに破れ、松太郎は支えがなくなったことと、破れた音に驚いてすっ飛んで逃げた。
読書も同様の手口で邪魔してくるが、流石に本は分厚くて破れない。
松太郎は、俺が手に持った本を乗り越え、肩に手を掛けて鼻チューしてくるので、やっぱり邪魔だ。
松太郎をだっこして、ちょっと構ってから読書を再開すると、今度は膝から身を乗り出して、本の上に乗る。
本は新聞より小さいので、奴の巨体の下敷きになり、全く読めなくなる。
太っているのではなく、やたらガタイがいいのだ。
獣医さんにしみじみ、「えぇカラダしてるなぁ~」と、言われた筋肉質なボディ。歩くと毛皮の下で、筋肉がムキムキ動くのがはっきりわかる。
肥満ではなく、大型の猫種でもないのに、体重は五キロくらいあった。
俺はこたつで仰向けに寝転がり、本に乗られないように、腕を上げて読み始めた。
空中は無理だと諦めたのか、松太郎は隣の部屋へ、のっしのっしと歩いて行った。
俺が第一章を読み終える頃、いきなり本が吹っ飛び、視界から消えた。
腕に受けた重い衝撃のせいだ。
何が起こったかわからず、見回すと、俺の傍で松太郎が毛繕いしていた。
何だかよくわからないが、本を拾い、気を取り直して、読書を再開する。
松太郎が毛繕いを中断し、隣の部屋に去った。
何となくイヤな予感がする。本を読むフリをしながら、横目で松太郎の動向を追う。
松太郎は、突き当りの壁際で振り返った。姿勢を低くして、お尻をもじもじする。
……ターゲット、俺?
気付いた瞬間、松太郎の恵体が砲弾さながら、部屋を飛び出した。
来るのがわかっていても、避けられない。俺の腕がタックルを喰らう。
恵体に加速をつけた衝撃は、予想以上に重かった。だが、辛うじて、本は落とさずに済んだ。
タックルが不発に終わった松太郎は、床に寝転び、腹を見せてくねくねし始めた。
いつもなら、「か~わいい~」とか言って構ってやるところだが、ムカつくからアイアンクローして、もう一方の手で腹毛をわしゃわしゃしてやった。
それはイヤだったのか、松太郎は耳を伏せて跳ね起き、廊下をドリフトして逃げて行った。
最初からこうすればよかった。
「巴先生は優しいから、邪魔だと思っても、そうおっしゃらないんですよ」
和坂さんが、公然の事実を明確に言語化した。
巴先生は、モニタの前に立ち塞がる黒猫に「クロ、おいで、だっこしよう」と声を掛けて抱き上げ、自分の膝に乗せる。
ちょっともふって、猫形態の使い魔がゴロゴロ喉を鳴らし始めたら、パソコンでの作業を再開する。
執事形態の場合、定期的に「ご主人様、何か御用はございませんか?」と聞いてきて、これはこれで鬱陶しい。
使い魔に頼める用がない時は、猫形態にして遊ばせて置く方が、まだマシなのだろう。
今も、健康診断には連れて行けないので、研究室で留守番をさせている。
「この件に関して、黒江さんは充分過ぎるくらい立派な猫です」
「立派ですか」
「この方向性でこれ以上、猫らしさを追求するのは、止めてあげて下さい」
俺と使い魔の遣り取りで、終に国包の笑いが決壊した。




