23.猫のお手伝い
それはさて置き、俺は、今の内によく言って聞かせることにした。
「出版社へ雑誌の原稿送るのに、ファイル形式が決まってますし、パソコンでなきゃ、できない用事もあるんですよ?」
「国立大学の給料って安いし、雑誌のお仕事が減ったら、ちくわ買ってもらえなくなるかもしれませんよ?」
国包が脅しをかけると、黒江さんは無言で琥珀色の眼を見開き、息を呑んだ。
巴准教授と双羽さんの祖国……ムルティフローラ王国は、完全な魔法文明国なので、貨幣経済の仕組みはない。
王族でも、金融資産はゼロだ。
宝石とかを日之本帝国で換金すれば、それなりの額になるだろうけど、巴准教授は、そう言うのに疎そうな感じの王子様だ。
この魔法生物は、本来ならリアル食物は必要ない。
主の魔力だけで活動できるので、おやつのちくわは、はっきり言って無駄な出費だ。
収入が減ったら、真っ先に削られる。
「こう言うところ、教えられてないのに、リアル猫と同じなんだなぁ……」
俺が呆れつつ感心すると、元猫飼いの和坂さんが、迷惑と懐かしさの入り混じった複雑な笑顔で同意した。
「そうそう。普通の猫ってテレビ見てたら、画面の上に乗って、尻尾を垂らしてワイパーみたいに動かして、なるべく見える面積が少なくなるようにしてみたり、新聞読んでたら、丁度、読んでる部分に寝転がって、おなか見せてくねくねしてみたり……」
黒江さんが、驚愕の表情を浮かべて固まった。
犬飼いの国包が、ちょっと心配して声を掛けた。
「黒江さん、どうしたんですか?」
「……」
黒江さんは、脂汗を浮かべて固まっている。
俺と和坂さんはピンと来て、同時に聞いた。
「ひょっとして……テレビと新聞の邪魔も、したことあるんですか?」
「……恐れ入ります」
黒江さんが厳かな声で肯定し、琥珀色の目を伏せる。
俺は何となく、もうひとつ聞いてみた。
「勉強の邪魔……って言うか、巴先生が使ってる最中の筆記具の先に、じゃれついたりとかは……」
「呪符作りのお手伝いをしようと、ペン先に手を添えましたところ、『猫の手は貸してくれなくていいから』と仰せでしたので、それ以後は致しておりません」
「それ、ホントにお手伝いのつもりでしたか? ペンの動きが面白くて捕まえてみたとか、ペン先から紙の上に線が出るのが不思議で、触って確かめようとしたんじゃありませんか?」
元猫飼いの和坂さんが、大真面目に答える黒江さんへ、疑念に満ちた目を向け、静かな声で問い詰める。
「ご慧眼……恐れ入ります」
小娘に看破られ、厳つい執事が恐縮する。
国包が、後ろを向いて肩を震わせた。




