22.猫は構ってちゃん
古い外国映画に登場するような年配の執事が、表情を引き締め、落ち着いた物腰で女子大生に質問する。
「和坂さん、『かまってちゃん』とは、どのようなものでしょう?」
「え……えーっと……この場合は、飼い主に構って欲しくて、色々ちょっかい出してくる猫のことです」
質問された女子大生の和坂さんは、少し迷ったものの、正直に答えることにしたようだ。
執事形態の使い魔は、この答えにも恐らく、斜め上の解釈をするに違いない。
俺たちは、すぐにフォローできるよう、身構えた。
「ご主人様に構って欲しくて、ちょっかいを出すことを『かまってちゃん』と言うのですか?」
「そうです」
言葉の意味を確認され、俺たちゼミ生は、三人同時に首肯した。
「ちょっかいとは、具体的にどのような……」
「あ、黒江さんは今でも充分、巴先生にちょっかい出してますんで、これ以上はちょっと……」
俺は片手を挙げて、使い魔の質問を皆まで言わせなかった。
黒江さんは、主の教え子に言葉を遮られ、悲しそうな眼で黙った。
元猫飼いの和坂さんが、ふと気付いた疑問を口にする。
「黒江さん、ひょっとして、自覚……なかったんですか?」
「自覚? 何のことでしょう?」
「うわ! ホントにわかってない!」
怪訝な顔をする使い魔に、現猫飼いの俺と犬飼いの国包が、同時に叫んだ。
俺は気を取り直し、首を傾げる燻し銀系のおっさん執事に懇々と言って聞かせる。
「黒江さんって猫形態の時、巴先生がパソコンで論文や、連載の原稿書いてたら、すぐ、モニタとキーボードの間に行くでしょう」
「はい。何時何時でも即応する為、ご主人様の視界内での待機を心掛けております」
執事形態の使い魔は、胸を張って答えた。
筋が通っているように聞こえるが、実は論理が破綻している。
「逆じゃありませんか? 御用聞きなら、邪魔にならない場所から、黒江さんが、巴先生を、見てればいいんじゃないんですか?」
「って言うか、命令が聞こえる範囲に居ればいい訳で、別にそこまで無理して、視界に入る必要、ないんじゃありませんか?」
「うん。黒江さんは使い魔なんだから、魔法の契約で巴先生と繋がってるし、わざわざ視界に割り込まなくてもいいんですよ」
和坂さん、俺、国包のゼミ生三人掛かりで突っ込む。
モニタの前に立ち塞がる黒猫は、ぶっちゃけ、邪魔だ。
国包が、素で意地悪な質問をする。
「必要もないのに、どうしてモニタの前に立つんです?」
「ご主人様が私にご命令下さらず、あんな四角い物にばかり構うので、あんな物より、この私の方がお役に立つと言うことを、思い出していただきたいからです」
パソコンを「四角い物」呼ばわり。
この使い魔は、知能が高いんだか低いんだか、よくわからない。
だが、使い魔がパソコンの性能……いや、魔法使いの巴先生が「使い魔を差し置いてパソコンを触っていること」に嫉妬しているのは、よくわかった。
俺たちは、魔法生物が嫉妬することに驚き、思わず顔を見合わせた。
何の為に、そんな機能が付与されているのか、全くわからん。




