21.猫のプレゼント
「うぅむ……成程……」
黒江さんは、苦しそうに頷いた。
いや、それ、そんな納得いかないこと?
「黒江さん、自分では鳩とか食べないでしょう? そんなの獲って来られても、巴先生、困るだけですから」
「そうですよ。鳩とか雀とか、バイキンだらけなんで、巴先生が病気になったら大変ですよ!」
和坂さんの言葉に、国包が便乗する。
黒江さんはしょんぼり肩を落とし、溜め息を吐いた。
「では、私からご主人様に贈り物をすることは、できないのですね……」
「猫基準のプレゼント……双羽さんに斬り捨てられても知りませんよ」
「プレゼントとかなくっても、巴先生は黒江さんがちゃんと指示を守って、用事をこなすだけで喜んでくれてますよ!」
「猫は『かわいい』がお仕事なんで、黒江さんが元気でいてくれるだけで、巴先生は充分、幸せですよ!」
国包がイヤそうに首を横に振りつつ脅しをかけ、俺がフォローし、和坂さんが可愛く言ってみせた。
「……そうでしょうか?」
執事形態の使い魔は、渋い声で疑わしげに言った。
俺と和坂さんが、声を揃えて肯定する。
「そうです。断言できます」
「何故ですか?」
「巴先生は用のない時、黒江さんを猫形態にして、だっこしてもふもふしてるでしょう」
「あれは、猫専用『かわいい』のお仕事なんです!」
「かわいいのおしごと……!」
俺と和坂さんの説明に、黒江さんが驚愕する。
犬飼いの国包が、アホの子を見るような目で見ているが、気にしたら負けだ。
「そうです。『カワイイのおシゴト』なんです! だから、自信を持ってください」
「大丈夫! 猫形態の黒江さんも、イイお仕事してますから! 私が保証します!」
「黒江さん、毎日ちゃんと巴先生の命令をこなして、今でもいっぱい褒められてるのに、なんでプレゼントしたいと思ったんですか?」
国包が、根本的なことを質問する。
冷静なこいつが居てくれて、ちょっと助かった。
「ご主人様はいつも、『猫の形の時は、人間の言葉でお話しちゃダメだし、ちゃんと普通の猫のフリをするんだよ』とおっしゃっています。普通の猫が贈り物をするなら、私もせねばなりません」
それは迷惑だから、やめてくれって話だったんだが、この使い魔は、どうやら別方向に解釈したようだ。
和坂さんが、ひきつった笑顔で説明する。
「猫全部がプレゼントくれる訳じゃないんですよ。友達の家の猫は全然、プレゼントくれなくて、台所の床とかに時々、パーツ単位で落ちてるだけなんだそうですよ」
何のパーツなのかは、敢えて言わない。
言ったら多分、この使い魔は実行する。
プロレスラーみたいなごつい体格の執事が、不安そうに俺たちを見回す。
「そうですか。贈り物をしなくても、ご主人様は、私の猫のフリを認めて、これからも構って下さるでしょうか?」
「あ……あぁ、大丈夫! 大丈夫です。今でも充分、猫です」
「そうそう! その構ってちゃんっぷりとか、充分、猫です」
俺と和坂さんが全力で肯定すると、黒江さんは燻し銀系の渋い顔を綻ばせて、無邪気に喜んだ。




