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12.猫の食い意地

 「えっと……話、戻そうか? なんだっけ?」

 「好きな食べ物の話よ」

 国包(くにかね)のわざとらしい質問に、和坂(かにがさか)さんがぎこちなく応じてくれた。


 ちょっと強引だが、俺も話題を戻す為に全力で話を転がす。

 「うちの猫、焼き芋が大好きで……」

 「焼き芋? 犬は雑食だけど、猫って肉食じゃないのか?」

 黒江さんじゃなくて国包(くにかね)が食いついてきたが、続行する。


 「うん。猫が実家に来てから、初めて庭で焚火して焼き芋した時、俺の体によじ登って来て、くれくれって、爪出して本気の猫パンチ、野獣の眼になって襲って来たんだ」

 「三田(さんだ)、猫に……焼き芋、奪われたのか?」

 「死守したよ。繊維多いだろ。猫の胃腸じゃ、消化できるかわかんないし」


 あの時の俺は、野獣と化した松太郎から焼き芋を守る為、鬼になった。

 体によじ登った松太郎を一旦、地に降ろしたが、奴は諦めず、再びよじ登ってくる。


 「おい! やめろ! これは猫の食べるもんじゃない! ダーメだったら! メッ!」

 俺の説得も虚しく、松太郎は腕に到達した。


 仕方がないので松太郎の襟首(えりくび)を掴んで引き剥がし、もう一方の手で、焼き芋を自分の口に押し込んだ。


 焼きたての芋は熱い。アツアツだ。だが、そんなことは構っていられなかった。

 松太郎は、宙ぶらりんの状態でも諦めることなく、爪を出して威力を上げた猫パンチを繰り出し、焼き芋を奪取しようともがく。


 俺は喉が詰まって死ぬかと思ったが、人間なら水を飲めば何とかなる。

 もし、奪われて、松太郎が喉を詰まらせたら……と思うと、食われる前に食うしかなかった。


 やっと食べ終わり、松太郎を解放した瞬間、奴は庭の片隅にすっ飛んで行き、猛獣のような唸り声を上げながら何かを(むさぼ)った。

 いつの間にか落ちていた芋のかけらだった。


 結局、完全には守り切れなかった訳だが、幸い、後で腹を壊すこともなく、松太郎は現在に至るまでピンピンしている。

 だが、それ以来、実家ではサツマイモを自家消費しなくなった。全量出荷だ。


 焼き芋は、色んな意味で危険過ぎる。


 俺の回答に、和坂(かにがさか)さんが、感慨深げに(うなず)く。

 「……だよねぇ」

 「焼き芋を巡って猫と本気バトル……」

 国包(くにかね)には半笑いで呆れられたが、松太郎の命には代えられない。


 何とでも言え。


 「代わりに缶詰あげたけど、()せぬみたいな顔してた」

 「焼き芋とは、それ程までに美味(びみ)な物なのですか?」

 黒江さんが別なところに興味を持った。


 ……ひょっとして、欲しいのか?


 俺は少し考えて、黒江さんが欲しがらないような言い回しを考えた。

 「まぁ、おいしいって言えばおいしいですけど、別に、命を懸けてまで食べるようなもんじゃありませんよ」


 「黒江さん、焼き芋食べたことないんですか?」

 国包(くにかね)が余計なことを聞いたせいで、俺の配慮は水の泡となった。


 「はい。ご主人様から(たまわ)ったことはございません」

 「ちょっと買ってきましょうか?」

 「何言ってんだよ! 無闇に食べ物与えんな!」

 「いや、ちょっとした実験だよ、実験。学術的好奇心」

 「巴先生のお留守にそんな、勝手に食べ物あげるなんて、ダメよ」

 和坂(かにがさか)さんの言葉で、国包(くにかね)は小さくなった。


 俺が言っても平気な顔してたクセに。


 「ご主人様のお許しを得ず、食物(しょくもつ)を口にすることは、禁じられております」

 黒江さん自身も、きっちり断ってくれた。


 やっぱ、キャットフードとかちくわとか、勝手に与えようとする奴が他にも居るんだろう。

 可愛い猫が、おいしそうに何かを食べて、喜んでいる姿を見ると(なご)むからな。

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関連項目。巴准教授、黒江、双羽が登場する話。
読まなくても支障はありませんが、関係性はわかりやすくなります。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
野茨の血族ポテ子も↓と同じシーンに登場。
碩学の無能力者ポテ子も↑と同じシーンに登場
汚屋敷の兄妹三人が大掃除を手伝う
野茨の環シリーズ 設定資料用語解説など
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