10.猫の反応
俺は猫の話題に戻した。
「猫って、普通に人語で話し掛けてれば、割と単語と物を結びつけて覚えますよ」
「単語と物が一対一の名称とか……特に好きな物と嫌いな物は、早く覚えますね」
「同じ『好きな単語』カテゴリでも『ごはん』と『缶詰』で、全然反応違いますし」
「ほほう……どのように変わるのですか?」
「猫がおなか空いてる時に『ごはん食べる?』って聞いたら、先回りしてお皿の前に座って待つんです」
黒江さんが、元猫飼いの和坂さんの言葉に興味を示したので、現猫飼いの俺が詳細を説明した。
餌皿の前で、ちょこんと座って待つ松太郎は可愛い。
「で、同様の状況で『缶詰食べる?』って言ったら、『ちょうだい! ちょうだい! 今すぐ! さぁ! ホラ!』みたいな感じで、ニャーニャー言いながら、俺の身体をよじ登ってきます」
「食べ物を手に持ってなくても、そんな感じなんですよね」
和坂さんが半笑いで付け足した。
少なくとも猫より知能の高い黒江さんが、首を傾げる。
「缶詰がなくても、そんな反応なのですか?」
「人間に上ったら缶詰出す邪魔になるだけなのに、待ちきれなくてそんなコトするんですよ」
「『はいはい、わかったから、あっちで待ってて』って言っても、待ってくれませんでした」
「猫って『待て』ができないんですか?」
和坂さんの説明に、犬飼いの国包が驚く。
「猫は単独生活だから、群の順位とかないし、食べ物があったら、すぐ食べるもの。その人を親だと思ってたら、おっぱいもらう感覚で、その人の所に来るんじゃないかな?」
「あ、そっか。犬は群生活で順位があって、下位の犬はご飯を待たなきゃいけないから……習性の違いですね」
淡々とした説明で、国包はあっさり気付いて納得した。
犬と猫、どっちが上でも下でもない。単なる習性の違いだ。
因みに、そういう時は、片手に缶詰を持ち、もう一方の手で松太郎をだっこして、餌皿の前まで連れて行く。
あれっ……? これってもしかして、「缶詰」って言う単語は、松太郎の中で「ウェットフード&だっこ」に変換されてないか?
俺は、ひとつの可能性に気付いた。
国包はそんな俺に構わず、黒江さんに質問している。
「そう言えば、黒江さんって、時々、巴先生にちくわもらってますよね?」
「魔力だけで生活してるのに、ちくわ……消化できるんですか?」
黒江さんはずっと昔、人工的に作られた魔法生物だ。普通の動物とは、身体の仕組みが違う。
さっき、排泄しないと聞いたばかりだ。
食べたちくわは、どこへ消えるんだ?
黒江さんは首を傾げた。
「さぁ……? しかし、ちくわはおいしいですよ」