仮面舞踏会 二
仮面舞踏会当日。アントニーナは、侍女達に丹念に磨かれた。彼女の美しさを引き立てる化粧に、綺麗に巻かれた黒髪。ドレスは、淡いピンクの生地にあちこちに薔薇の刺繍が施され、胸元にリボンがついている。そして、シルバーの仮面を被っている。
アントニーナは、会場にいる令嬢方の中でも一際美しかった。
アントニーナは、煌びやかな会場を練り歩き、目当ての人物を探したが、案外すぐに見つかった。その人は令嬢方に取り囲まれていて、仮面をかぶっていてもとても目立っていた。しかし、アントニーナはあの令嬢方の中に入っていく勇気はとてもなく、ただ集団を見つめていた。そんな時。
「ご令嬢。よろしければ、私と踊っていただけませんか?」
アントニーナに声を掛けたのは、黒い仮面を被り、整った顔立ちの男だ。
「ええ、喜んで。」
彼女は、特に断る理由も無かった為、誘いを受けた。
音楽に乗ってステップを踏み、二人は優雅に踊る。男は時々アントニーナに微笑み掛け、彼女もまたそれに応えて微笑んだ。美しい男女が踊る様子は大変絵になっていて、見惚れている者や次にダンスを申し込もうと決意している者などがちらほら見受けられた。
やがて、音楽が終わり、二人は別れた。そしてまた、別の男がアントニーナに声をかける。
「美しいご令嬢、どうか、僕と踊ってくれますか?」
「喜んで。」
そして踊り、曲が終わると別の人と踊りー
しかし、アントニーナも当初の目的を忘れたわけでは無い。それとなく目当ての人物に視線を向けるが、令嬢と踊っていたり、囲まれていたりとなかなかチャンスが巡ってこない。アントニーナはアントニーナでひっきりなしにくる誘いの対応で忙しかったりする。
やがて、埒が明かないと判断し、一旦誘いを断ると、壁の花になった。給仕からグラスを受け取り、ワインを飲んで休憩する。
相変わらず、彼は令嬢に囲まれている。アントニーナが当初の目的を果たす為には、彼に接触しないといけない。今、この機会を失えば、次はいつくるか分からないし、そもそもその為に仮面舞踏会に来たのだ、今を無駄にしてはいけない。アントニーナはしばらく葛藤していたが、やがて、腹を括ると、出陣した。
アントニーナは令嬢の群れに加わると、なんとかヴィクトールに話しかけようと機会を伺っていたが、やがてヴィクトールのほうがアントニーナに気付いた。
ヴィクトールはすぐさまアントニーナにダンスを申し込み、令嬢たちは「なにあの子だれ?」と囁きあった。
曲が始まり、二人は踊り出す。
ヴィクトールはアントニーナを愛おしそうに見つめ、語りかけた。
「ようやく会えた、ニナ。この日をどれだけ待ち望んでいたことか。」
「私も、あなたと再び会える日を夢見ておりましたわ。」
アントニーナもヴィクトールに微笑みかけながら答える。
「ニナ、愛してる」
ヴィクトールの目は獲物を狙うそれで、その目を真っ直ぐ向けられたアントニーナは鳥肌が立ったが、なんとか耐えた。
「私も、あなたをお慕いしておりますわ。」
心にも無いことをいったアントニーナだが、ヴィクトールはその言葉を聞いて心が歓喜に震えるのを感じた。
「ニナ…ああ、愛しいニナ。こんなにも君を愛しているのに君の事を何も知らない。だから、もっと君のことが知りたい。」
「私もですわ。」
やがて、音楽が終わり、ダンスが終わった。ヴィクトールはアントニーナの手を引いて休憩室へ向かった。
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