仮面舞踏会 一
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「あの人頭おかしいわ!いくらなんでも初対面の人に求婚するなんて!それに、何処の馬の骨とも分からない女に」
アントニーナは、驚愕し、動揺を隠しきれない様子で叫んだ。
「確かに、真意を図り兼ねますね…。仮にも一国の王太子ともあろうお方があのような事を仰るとは…。」
アントニーナの侍女クロエは、意に介さないという風に言った。
クロエは平民出身の侍女なので貴族や王族の詳しいことなど分からない。だが、王族と平民など身分が離れている者同士が結婚出来ないことは分かっていた。実際身分差の恋の悲劇を描いた小説や演劇はたくさんある。
なので、次期国王となる人が“ニナ”と結婚することは不可能といっていい。それを分かっていながらなぜ求婚したのか。そこまで考え、クロエはある可能性を思いついた。
「もしかしたら、あれも一種の口説き文句なのかも知れません。」
その言葉に、アントニーナはハッと顔を上げた。
「なるほど…。本人は結婚する気は更々無いくせに結婚しようと心にも無いことをいって口説き落として飽きたら捨てる、最低ね!」
アントニーナは怒りを露わにし、一気に捲し立てて言い切った。
それが勘違いだと知る由もなく。
☆☆☆
アントニーナは、屋敷を抜け出し、護衛も付けずに(本人が気付いていないだけで本当はいる)街の中を歩いていた。貴族令嬢としてあまり褒められた行為ではないが、今に始まったことではない。アントニーナは幼少の頃より放浪癖があり、屋敷を抜け出す事はよくあることなのだ。
質素なワンピースに黒い鬘、そしてボンネット。いつもの出で立ちだ。
「そこのお嬢ちゃん、可愛いね。お兄さんとどっかいかない?」
茶髪でチャラい雰囲気でいかにも遊び人、といった感じの青年がニヤニヤしながらアントニーナに話し掛けた。後方には彼の仲間らしき人物が何人かいる。
「ごめんなさい、今日は用事があるので。」
アントニーナは、特に慌てず、慣れた感じでスマートに断った。アントニーナはその美貌故こういった事は多々ある。なので、その対応の仕方も身についているのだ。
「そっか、残念。」
青年は一言そう言うと、アントニーナに興味を無くし、仲間と共に別の女を探し始めた。
特に目的もなく歩いていたアントニーナだったが、サン・ミラ歌劇場の前でふと足をとめ、歌劇場の看板を見ている。看板の内容は、仮面舞踏会の告知だ。アントニーナは看板を見てなにやら考え出した。
そして、閃いたとばかりにパッと顔を上げると、ワクワクした様子で屋敷へと帰っていった。
☆☆☆
「クロエ、今度サン・ミラ歌劇場で仮面舞踏会を開催するんだけれど、私、ニナとしてそれに参加したいわ。だから、その手筈を整えて頂戴。」
「分かりました、侍女長に連絡を入れておきますね。当日のドレスなど準備させて頂きます。」
クロエは、水を得た魚のように生き生きとした表情で返事をした。クロエにとって、美しいアントニーナを着飾らせる事は人生の楽しみの一つだったりする。それは、他に仕えている侍女たちも同様だ。
「あ、ドレスの事なんだけれど、あまり華美でない方がいいわ。出来るだけシンプルで、清楚な感じの物をお願い。」
「分かりました。」
クロエはそう答えながらも早速ドレスに思いを馳せていた。
「私がニナを演じるのは、恐らくこれが最後よ。私の計画はー」
アントニーナは、計画を話し始めた。
歌劇場の仮面舞踏会は、身分や出身など様々な人が仮面を被って参加する。身元が分からないため、貴族が羽目を外す為に参加することは多い。稀に、王族も。なので、王太子が参加する確率はかなり高い。ニナとして参加し、王太子の前に現れる。ところで、仮面舞踏会の会場には休憩室が用意されている。そして、当初の計画通り事を運ぶ。それがアントニーナの計画だった。
「今思えば始めからそうすれば良かったかも…。なんだか、遠回りした気分だわ。」
アントニーナは遠い目をして言った。全く同感である。
「まあ、そういうわけで、準備よろしくね。」
「御意」




