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オニンギョウ

作者: 緋色海月

―使用上の注意。あまり強い負荷をかけると、破損の原因になります。ー

ー何事も適度に、安全に遊ばれる事をお奨めします―


どこかで、かしゃん、と音がしたような気がした。

「どうしたー?」

「んー?何でもない。」

音を聞きつけたのか、不思議そうに振り返る彼に笑い返し、少女は首を傾げる。

今のは何の音だろう?

自分でもわからないまま歩くと、やはりカラカラカラ、と音がした。

「?」

「それより、どうするよ?」

「好きなようにしていいよ。何がしたい?今日は何になればいい?」

「たまには違う事もしたい気はするけどな。」

「うん、それでもいいけど。」

首をひねる彼に微笑みかけながら、何故か言葉は淡々と口から出る。

何か、違和感があるような・・・。


カシャン。


二度目の音で、顔面に微笑が張り付いた。


カラカラカラ。

先ほど聞いた、何度聞いても違和感しかない音で、溜息のように”何か”が逃げていくのがわかった。


ああ、私は、もう―。



「いきなり故障したんだけど。どういうこと、センセ?」

急に停止した”少女”―正確には精巧に出来た人形―を指して、男は不満そうに眉をしかめた。

椅子に座った白衣の男が、様子を見るように人形を撫でまわしながら「ははぁ・・」と浅く笑った。

「何か強い負荷を与えたでしょう。」

「落としてもねえし、殴ってもねえし!俺知らねーって。」

「そういう事じゃなくて、ですね。」

ふー、と溜息をついた白衣の男が肩甲骨あたりまで長く伸ばした髪を無造作に荷造り紐で括りながら、男は目の前の男を諭すように、ゆっくりと言葉を切りながら言葉を続ける。

「あなたは。一度でも、この子自身の話や意見を聞きましたか?」

「は?」

かすかに笑みを浮かべた男と、怪訝な顔のまま、よくわからない顔をした男。

マジ意味わかんね。頭おかしいんじゃね?そう顔に書いてあるのがありありとわかる表情である。

薄暗い部屋に置かれた人形は、虚構の涙さえ、もはや流すことは無い。

「彼女は何が好きで、何がしたくて、あなたをどう思っているのか。聞いたことは?」

「関係なくね?そんなん。だってコイツ、遊ぶための玩具だろ?俺のためだけに動けばいいんじゃね?」

「友達とか居なさそうですねえ貴方・・・。」

ずけっと物を言う白衣の男は、そう言うだけで一向に治そうとも、手を動かそうともしない。

その態度にイライラしてきたのか、短気な人形の持ち主は怒鳴るように返す。

「んなこたどうでもいいんだよ!!治るのか、なおらねえのか!!」

「じゃあ、治らないとしたら、あなたはどうします。」

「治らねえなら早期故障で保障金ぶんどって、新しい新型買うまでだろ?」

「ふうん?」

「センセ、新型見せてよ。新しい奴。今度は少し活発なほうが良いな。従順すぎると飽きるっつうか。」

「残念ながら、今は全て出ておりましてね。」

にこ、と答え、白衣の男は大画面ディスプレイに向かう。

いくつかキィを操作し、画面に大きな文字を呼び出した。


「あなたは失格です。出直してらっしゃい。」


画面には大きく、黒い文字で”DELETE”の文字。


「へ?」


唐突に言われた言葉が理解できず、男は目を見開いた。



ガシャン―。



ぽん、と白衣の男がキィを押すと、足元に開いた穴に、男は落ちていった。

底の底で、乾いた、壊れた音を立てて。

穴の中は暗く、何かが山になっている。

男の、外れた腕や壊れた頭から、壊れた電子機械のコードや板が覗いていた。

下には、同じようなキカイが、うず高く山になっているのだった。


「やれやれ。身勝手すぎるのも困り者ですね。次からはプログラミングに気をつけなければ。」


穴を見やることも無くそんなことを言い、白衣の男は穴をキィ操作で閉じる。

人形同士、仲良くできると思ったのだが。


「まさか、辛抱強いお前が壊されるなんて・・ねえ?」


男が優しく撫でるのは、壊れた人形の少女。

柔らかな白のワンピース一枚を身に纏い、純白の髪に深紅の花を飾った、あどけない、美しい少女の人形。

見開いたままの目は美しい薄青。

幼い肢体は美しく、肌はニンゲンそっくりに柔らかく作ってある精巧な。


白衣の男は再びキィを操作し、ディスプレイの文字を変えた。

美しい木々と光、空の映像がディスプレイに現れる。

右端にー”Recovery”の文字。

優しい音色が、薄暗い部屋を満たすように流れ始める。


「ココロの故障を直すのに、特別な手段がいるわけでは無いんです。

ただゆっくり、回復を待って、それから話を聞いてあげるしかない。

君はーそのままでいいんです。話せるようになったら・・ゆっくり、話を聞かせてくださいね。

その時を・・楽しみにしていますから。」


髪を撫で、頬に触れ、優しく優しく、男は語りかける。

壊れた人形は動かない。目を見開いたまま。

ただ、すう、と一筋、表情を変えない人形の頬に、水が流れていった。


ロリコンで妖しい医者が大好きです。

ただそれだけです(にこお

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