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春のフォログラフィ
軟らかい、柔らかいあまやかな何かが欲しくて手を伸ばす。
届かない世界でただ手を伸ばす。
どこに向けて?
それはきっと未来に。
やさしいモノが欲しいのかしら?
きっとそうなのかもしれない。
春の陽射し。
花揺らす風。
澄んだ水面に映り込む大空。
世界は煌めいて美しい。
私の居場所はそこに在る?
それが見えないのがきっと心もとなく頼りない。
易しいその場限りの安寧はいらない。
欲しいのは強く在れる自分への優しさ。
自分が強く在れる安寧を自らに許したい。
私はこの美しい世界での居場所が見えない。
世界は美しい。
それはガラス越しの蜃気楼。
軟らかく柔軟にありたい。
どんな風も受け流せるしなやかさを持ちたい。
受けた痛みを感じる自らを持ちたい。
遠い遠い蜃気楼。
春の日差しはうららかに。
ガラス越しの蜃気楼は私を傷つけることも癒すこともない。
手を伸ばす。
すり抜ける彩はただのフォログラフィ。




