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金狼の惑い
母親に抱かれて弟妹に兄と呼ばれる
ここが自分の居場所と思えず悩む
弟妹は愛らしい
悪魔が笑う
「アレは母親の妹だろう。おまえが小さかったからあるべき場所から掠め奪ったのさ」
悪魔が伸ばす優しげな指先
「おまえの本質はケダモノ。ふたつの姿。ふたつの性があるから力は均衡を保つのさ」
指先が頬を掠める
囁く声は聴きとるに不自由なく
「おまえを生み出したるは父なるものの力。そこにいる弟妹達はおまえと違うよ」
その言葉に自分が不明になる
ひらんと悪魔が髪をひるがえして距離をとる
「兄や姉を救いたくはないか?」
あに?
あね?
「兄や姉を犠牲にした今より、元のあるべき姿へ戻りたくはない?」
悪魔が笑う
「この世界は不完全。おまえの兄や姉を礎にしてかろうじて成り立っている砂上の楼閣。おまえはそのために取り出された」
握る拳が震える
怒りだろうか
恐れだろうか
「おまえは扉。おまえなら兄や姉を自由にできる」
悪魔が笑う
「おまえが弟妹と愛しむ者らはその世界に存在できるかわからないけどね」
悪魔が笑う
どちらかしか選ぶことができないのだと
狼
扉
葛藤




