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ぬいぐるみの兎
蜂蜜色の甘い光沢
にゅいっとのびた耳
ぬいぐるみを抱えた
兎は足を投げ出す
ふわふわ揺れる花を見つめ
ぬいぐるみを投げ出す
バタバタと花を踏みにじり
辺りを見回して頭を垂れる
理解していながら
理解したくない
にじり潰された花を摘み取り
口に運ぶ
「閉ざされていてもかまわないの」
ほろりころりと透明な雫が落ちる
「独りは……いや」
かつて
さみしさとは無縁だった世界
崩壊を迎えて独り取り残された
差し伸べられた手を取ったはずだった
そっとぬいぐるみを拾う
「残ったぬけがらであなたを作ったけど、あなたは誰でもないのよね」
ぎゅうと抱きしめるぬいぐるみは力なく抱かれる
応えないぬいぐるみに兎はそっと笑う
兎
あい
残骸




