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翼を広げて  作者: とにあ
自由にまばらに
318/400

電話

「じゃあ、またね」

 そう言って電話を切った。

 ただの雑談。

 親しげな声と口調に会話は弾んだ。

「でも、誰だったんだろう?」

 知っている声だと思う。

 当然のようにまくしたてた相手の声。

『ダレ?』だなんて聞けなかったし、聞く気になれなかった。

 いつものように『じゃあ、またね』と締めくくって電話を切った。

 あれ?

「誰だったっけ?」

 知っている声のはずなのに名前が思い浮かばない。

 彼女の言葉を思い出す。

『知らない人からの電話に気をつけなきゃダメよ。今時、あぶないんだから』

 心配してくれた。

『ねぇ、迎えに行くわね。歩きながら電話をしてちゃダメよ』

「じゃあ、切るね。また」

『ううん。これで最後。迎えに来たわ』

 足元が何もなかった。



 それが彼女のしてくれた話。

 だから知らない電話に気をつけろと。











『ほら。迎えに来たわ』








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