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電話
「じゃあ、またね」
そう言って電話を切った。
ただの雑談。
親しげな声と口調に会話は弾んだ。
「でも、誰だったんだろう?」
知っている声だと思う。
当然のようにまくしたてた相手の声。
『ダレ?』だなんて聞けなかったし、聞く気になれなかった。
いつものように『じゃあ、またね』と締めくくって電話を切った。
あれ?
「誰だったっけ?」
知っている声のはずなのに名前が思い浮かばない。
彼女の言葉を思い出す。
『知らない人からの電話に気をつけなきゃダメよ。今時、あぶないんだから』
心配してくれた。
『ねぇ、迎えに行くわね。歩きながら電話をしてちゃダメよ』
「じゃあ、切るね。また」
『ううん。これで最後。迎えに来たわ』
足元が何もなかった。
それが彼女のしてくれた話。
だから知らない電話に気をつけろと。
『ほら。迎えに来たわ』




