あじわう
「味なんて、二の次、三の次よね」
「ホントは大事なんだけどね」
君がゆっくりと手を伸ばす。
「ケーキは甘いのくらいはわかるわよ」
「人間の欲求の一つと密接なのに」
「睡眠食欲性欲。種の保存の本能ね」
君は指についたクリームをペロリと舐めとる。
「食欲に関係深いよね」
「そうね。食べないと死ぬもの」
そう言いつつ、フォークをケーキに突き刺して乱雑に削り取る。
「そうだね」
「ねぇ」
「なに」
「あなたは、死にたいのかしら」
君はパラパラとケーキを崩し落としながら問い掛ける。僕は、ちょっと考えて、置かれているケーキを見下ろす。紅茶風味のスポンジに白い生クリーム。飾られてるのはブルーベリーやラズベリー。
食欲は、ない。
「さぁ。どうなんだろう。よくわからないんだよね。したい事とかが自信がなくてさ」
でもさ、
「生きている限り人生は僕自身のものだから、思うようにいきたいんだ」
「それで、死にたいの?」
君はニヤニヤと繰り返す。答えがわかっている質問をあえてしていると示すように。
「死にたくない。したいことはわからないけど」
ゆっくりとブルーベリーを摘んだ指が僕の口元に運ばれる。
「じゃあ、いろいろ味わいなさい。素敵なコトも辛いことも待ってるわ。全部目を逸らさず味わい尽くすつもりで味わいなさい」
押し込まれるクリームまみれのベリー。甘さも何もわからない。口の中がただ不快。
君は朗らかに笑う。
「嫌さもしっかり味わいなさい」




