生死感
診断メーカーお題
ベッドの上でタバコをくわえ、ブランと開いた窓から上半身を晒す。
逆さまな視界。
がつっと足をつかまれ引かれる。
「乱暴だなぁ」
物憂げな扱いに落ちていったタバコを見送る。
ああ。もったいねぇ。
「落ちたら死ぬでしょう?」
顔を上げると見えるのは、足を掴んで引きずったままに足をまだ掴んでる小柄な青年医師。
「面倒ごとが減ると思うんだけどね、センセ」
思ったことをそのまま告げて、タブレットに手を伸ばす。
逆さまの世界。
空を下方に見て、大地を空と見る世界。
荒廃する廃墟を舞台にしたいのは登場人物を減らすため。
絶望に満ちた世界で彼らは生きていくのだ。
己が希望の光を求めて。
乗った気分のままタップし続ける。
データの世界に重みがましていく。どんな複雑な設定もキャラの心の動きも愛おしく重厚に恋をし、人を愛することを望み、生きることを切望する。
荒廃した世界だからこその状況。
ただ、それと引き換えにその世界から離れたとたん、襲いくる感覚は。
「息をするのも声を出すのもめんどくさい」
「しっかりタブレットを操作する元気はあったじゃないですか」
取り上げたタブレットを少し遠い棚に置き(身長が低い彼は高いと思ってるところに背伸びをして置いているが、高い場所ではない)、もどってきてサイドテーブルに置かれた入院食をしめす。
「さぁ、栄養失調以外はまだ健康なんですから、ゆっくり食べなさい! それとタバコは禁止ですよ!」
ふわんふわんとねこっけが揺れる。
「せんせー! てんちょーがしーんーじゃーうぅううううう!」
撫でたいかなと言う心境にかられたとたんに響く声。
ばたばたと走ってくる足音は扉の開かれた病室まで迷わず飛び込んできた。
うん。
羊が。
ふわもこの羊毛。くるんと弧を描く角。
おそらくメリノ種をイメージしてるんじゃないかと思う。
二足歩行だが器用に前足もひづめなてぶくろだ。
もちろん、デフォルメされた着ぐるみ。
仕方ないなと思って、ほとんど、流動食の食事を流し込む。
「症状は? 落ち着いてね?」
と一生懸命なセンセの頭をくしゃりと撫でる。
「センセが落ち着けよ。サクッと往診すりゃいいだろ。めんどくせぇ問答してっよりよ」
往診かばんとってこいよと促してジャケットの袖に腕を通す。
タブレットはちょうど視線の高さ。
ジャケットの内ポケットにしまいながら、羊を促す。
まとまらない言葉から、意識は朦朧、熱も出てるという情報をゲット。発疹や他の症状はなし。
意外と見てるなと思いつつ羊を宥める。
「行くぞ!」
走ろうとするセンセからかばんを取り上げる。
不満そうなセンセににやりと笑いかける。
「センセごとが良かった?」
路地裏の店の店長は診断の結果ただの風邪だった。
「うわぁあああんっ! ありがとうーーー!!」
羊の抱擁は角度によって角で痛かったと記しとこうと思う。
ねーとにあ、生きることすら面倒な物書きと患者の存在をすぐに忘れる医者のどちらかが、誰かのヒーローになるまでの話書いてー。 http://shindanmaker.com/151526
先生は治療中の患者が活動的であることを意識してないというか、患者認識してるんだろうか?
たぶん、この人たちは新住人。




