『最後の一人』
診断メーカーよりお題
腿に残る痣。それは大きくなるに連れてくっきりとした手形へと変わる。
物心ついた時にはこの痣と共にあった。
私の父は小説家。住んでいるのは過疎化の進んだ田舎。
廃校を買い取って自宅にした。
教室のひとつが私の部屋。窓ガラスの向こうに見えるのは雑草まみれのグラウンド。
見下ろしつつ思う。
あの中を散歩したらどんな気分なんだろう。
私はこの部屋から出た記憶がない。
この部屋だけで事足りるのだ。
水場もあるし、簡易キッチンもある。
父の部屋は一階上の別棟らしい。行った事はないから知らない。
そしてそこには図書室があるという。
それがとっても魅惑的。
そっとドアに手をかけてもドアは動かない。
父が入ってくる時はあんなにあっさりと開くのに。
見るものがあんまりに少なくて私は身近なものをじっと見る。
だから、腿の痣が私を捕まえる手に見えた。
その夜から夢を見る。
見たことのない大きな扉。
今にも開きそうなその扉が怖かった。
夢の中、私は走って逃げる。走って走って走って。
真っ暗な中、走る。
開いた扉の先で、スーツ姿の女が笑った。
彼女の笑顔がさっと消える。
その手が伸ばされる。
私の足場が消える。
お ち る
「たすけて。おかあさん」
そして気がつくあのスーツ姿の女性は私の母なのだと。
腿に感じる圧迫。
母の手が腿を掴んでる。
安心させるような音が降ってくる。
母の声なのだろう。
気がついたのは私が小さいということ。
それでもバランスが悪かったのかして私たちは落ちた。
青い空が見える。
それはどこまでも青い青い空。
青く美しい夜空だった。
そんな夢。
掛け布団を掴んで涙をこらえる。
あれはいつのことだろう。
ある日父との食事中、お母さんのことを聞いてみた。
「私のお母さんはどこにいるの?」
父は答えてくれない。
あの光景は記憶にない思い出。
あれはいつだったのか考える日々。
眼鏡越しの父の視線が粘りつく色を帯びているように感じた。
気がつけば、見知らぬ部屋だった。
壁には記憶の母の笑顔。
「お前に、母はいない」
父の声が聞こえた。
「お父さん?」
「私はお前の父ではない。お前はこの部屋で生まれた」
くらりとする。
青の夜が見える。
すべてが拒絶される。
たすけて、……おかあさん。
私は自分の足で歩き出したいの。
今日のお題は『小説家』『グラウンド』『スーツ』、テーマは『最後の一人』です。 http://shindanmaker.com/470711
とにあへのお題は〔重たい扉〕です。
〔三人称視点禁止〕かつ〔「歩く」描写必須〕で書いてみましょう。
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とにあさんの本日の身体部位は「腿」、行動は「つかまえる」、重苦しい作品を創作しましょう。補助要素は「想い出」です。 #karadai http://shindanmaker.com/73897




