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翼を広げて  作者: とにあ
自由にまばらに
177/400

『最後の一人』

診断メーカーよりお題





 腿に残る痣。それは大きくなるに連れてくっきりとした手形へと変わる。

 物心ついた時にはこの痣と共にあった。

 私の父は小説家。住んでいるのは過疎化の進んだ田舎。

 廃校を買い取って自宅にした。

 教室のひとつが私の部屋。窓ガラスの向こうに見えるのは雑草まみれのグラウンド。

 見下ろしつつ思う。

 あの中を散歩したらどんな気分なんだろう。

 私はこの部屋から出た記憶がない。

 この部屋だけで事足りるのだ。

 水場もあるし、簡易キッチンもある。

 父の部屋は一階上の別棟らしい。行った事はないから知らない。

 そしてそこには図書室があるという。

 それがとっても魅惑的。

 そっとドアに手をかけてもドアは動かない。

 父が入ってくる時はあんなにあっさりと開くのに。

 見るものがあんまりに少なくて私は身近なものをじっと見る。

 だから、腿の痣が私を捕まえる手に見えた。


 その夜から夢を見る。


 見たことのない大きな扉。

 今にも開きそうなその扉が怖かった。

 夢の中、私は走って逃げる。走って走って走って。

 真っ暗な中、走る。

 開いた扉の先で、スーツ姿の女が笑った。

 彼女の笑顔がさっと消える。

 その手が伸ばされる。

 私の足場が消える。



 お  ち   る



「たすけて。おかあさん」


 そして気がつくあのスーツ姿の女性はの母なのだと。

 腿に感じる圧迫。

 母の手が腿を掴んでる。

 安心させるような音が降ってくる。

 母の声なのだろう。

 気がついたのは私が小さいということ。

 それでもバランスが悪かったのかして私たちは落ちた。

 青い空が見える。

 それはどこまでも青い青い空。

 青く美しい夜空だった。



 そんな夢。

 掛け布団を掴んで涙をこらえる。

 あれはいつのことだろう。

 ある日父との食事中、お母さんのことを聞いてみた。

「私のお母さんはどこにいるの?」

 父は答えてくれない。

 あの光景は記憶にない思い出。


 あれはいつだったのか考える日々。

 眼鏡越しの父の視線が粘りつく色を帯びているように感じた。




 気がつけば、見知らぬ部屋だった。

 壁には記憶の母の笑顔。

「お前に、母はいない」

 父の声が聞こえた。

「お父さん?」

「私はお前の父ではない。お前はこの部屋で生まれた」

 くらりとする。

 青の夜が見える。


 すべてが拒絶される。


 たすけて、……おかあさん。


 私は自分の足で歩き出したいの。

今日のお題は『小説家』『グラウンド』『スーツ』、テーマは『最後の一人』です。 http://shindanmaker.com/470711

とにあへのお題は〔重たい扉〕です。

〔三人称視点禁止〕かつ〔「歩く」描写必須〕で書いてみましょう。

http://t.co/zUcjIxRfpr


とにあさんの本日の身体部位は「腿」、行動は「つかまえる」、重苦しい作品を創作しましょう。補助要素は「想い出」です。 #karadai http://shindanmaker.com/73897


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