偽装の町で2
視界8ビット料理人
着ぐるみ女
お題
ゲスト1
「ありがとね。また注文するかもって言ってた」
君が笑う。
茄子にフォークを差し込んで上にのせたミンチをこぼしていく。そんな君はふわもこのホワイトタイガー。肉球付の手袋はカウンターの上。
僕はそんな君の白い着ぐるみに油やたれが落ちないかはらはら。メニューミスったかな?
君の好みは肉食系。
しっかりした味を好む。
それでも好き嫌いは今のところはないみたい。
そっと君の情報を蓄積していく。
茄子の熱に気持ち慌てつつ、君は水を含む。
「あっちゅー」
ちょっと回ってない口調に恥ずかしそうにカウンターを蹴る(たぶん、無意識)。
「ごめん。大丈夫?」
布巾を持って慌てる。
油ののったミンチが白い毛皮に散ったのが見えたから。
「あー、みちゃだめー」
君は布巾を奪ってばたばた乱暴に毛皮を撫でる。
それだけで汚れは残っていなかった。
「ふーふーふー。汚れにくいコーティング済みなんだよー。いーでしょー」
得意げに胸を張る君。
僕はそんな君にかなわない。
力になれない戸惑いと君の眩しい笑顔に翻弄される。
細かい差異を見分けられない視界の中で君だけが細分化されていく。
「すごいね」
つまらない僕はそれしか告げれない。
君を楽しませる言葉が紡げればいいのに。
「うん! おねーちゃんはかっこいいの!」
君の嬉しい声はその周囲を眩しく照らす。
「つまり彼女が好きなんだ」
夜の客がのんびりとチーズをもてあそぶ。
甘めのカクテルとチーズ。
彼女が注文するのはいつだってそれだけ。
「好き?」
そうなんだろうか?
お世辞にもまともな人材とはいえない僕。
そこそこやっていけるかもしれないけど一流にはなれないし、貯金が尽きればどうなるのかの自信もない。でも集客に力を入れる気もない。
ふふっと笑う彼女はグラスを爪で軽くはじく。
「人を好きになるのは美しい。がんばれ、青少年。誰も禁じやしないさ」
僕の視界にめがねの奥は見えはしない。
それでも、
「あなたにも好きな人がいるんですか?」
聞いた。
その声が焦がれて聞こえたから。
「好き? 好きなわけがない」
ただ拒絶する焦がれた声。
矛盾した声の揺れに僕は困惑する。
僕が彼女にこんな風に言われたら傷つくんだろうかと心が揺れる。
どうして傷つきはしないと思うのかがわからない。
勘定を済ませ、店を出る彼女がぽつりと呟いた。
「好きなんかで終われはしない。他など求められないほどに愛してるんだ」
言葉がどこまでも痛みを感じさせた。
今日のとにあのお題は、『かなわない』『見ないで』『好きなわけない』です。 #jirettai http://shindanmaker.com/159197




