擬装の町で
料理人と着ぐるみ女
彼女の視点
一歩踏み込む。
キラリと輝く光沢。
おねーちゃんのセンスは絶妙にあたしにヒット。
今日二回目の路地裏の隠れ家料理店。
残念ながら海老さんのまんま。
「てんちょー」
がちゃりとノブを回せば手軽にあく。
汚れが目立たないようにか薄暗い店内。
偽物の観葉植物。
天井のファンが冷房の空気と料理の匂いをいい感じに攪拌する。
ゆっくりした動きで、カウンター向こうの厨房でてんちょーがこっちを見てにこりと笑う。
「珍しいね。おやつでも食べに来た?」
おやつ!
それもイイなぁ。
うずうずとしつつも要件を口にする。
「こっちがさきだぁ」
「え?」
「ぁうん。てんちょー。テイクアウトってできる〜?」
「ぁうん?」
ああっ。不審がられてる?
すぐに笑顔になったてんちょーが軽く頷いてくれる。
「できるよ。お得意様が喜んでくれるんならかるーく準備しちゃうよ?」
うん。てんちょーの笑顔が大好きだ。
晴れた草原の青空をゆく風のようで。
「えぇっとねぇ、リクエストは美味しくてさっぱりなの。脂っこいのは控えめでって〜。脂身も美味しいよね?」
おねーちゃんのメールを読み上げる。
「あれ? 海老ちゃんが食べるだけじゃないんだ?」
「うん。おねーちゃんといそーろーが食べるの。あたしはおつかい」
「二人分?」
「うん」
そんな会話をかわしながら、てんちょーは重箱にいろいろを詰めていく。
トンと置かれる小さなケーキ。
パイ生地とピーチと生クリームのミルフィーユ。横に白いアイス。
「サービス」
「カワイイよ! てんちょーだいすき!」
てんちょーが笑う。少し照れ臭そうな優しい笑顔。料理と一緒であったかいの。
「褒めるのは食べてからにしてほしいな」
あたしも笑う。
慌ただしく、手の装備を取って食べる準備。ちゃんと気をつけて動かないと他のテーブル殴っちゃう。
着ぐるみの難点は着てるものによって空間把握が変わっちゃうコト。
ホント、ここがいつも空いてて助かっちゃう!
カシスオレンジのジュース。ピーチのミルフィーユ。添えられたアイスはさっぱりな檸檬。
重箱にいろいろを詰めていくてんちょーは仕事ができる男っぽくてかっこいい。うーん、優しいお母さんの台所っぽくもあるかな?
この時間はあたしの独り占め。
ココがお店って知ってる人はきっと少ない。
だって他のお客さん見たコトないし。
でも宣伝なんかしない。
だってあたしのお気に入りなんだもん!
「うーん! 美味しー」
「それは嬉しいな」
「うん。てんちょーだいすき!」
嬉しそうな笑顔、はにかんだ笑顔!
ごちそうさま!
ねーとにあ、見るもの全てが8bitに見える料理人ときぐるみを着た女が恋に落ちていく物語書いてー。 http://shindanmaker.com/151526




