人生行路3
着ぐるみ男と女探偵
エアコン
「暑い。なぜこんなに暑いんだ」
呟く男に向けられるのは冷たい眼差し。
「暑いと喚くなら馴染みの喫茶店にでも涼みに行くといいだろう?」
「待ってくれ。この陽射しの中でかけろと言うのかい?」
「暑いんだろう?」
不思議そうに首を傾げられた馬の着ぐるみを着た男が机に突っ伏す。
ピッと軽い操作音。
「どうしてエアコンを切るんだい?」
「出かけやすいだろう」
「くっ! 覚えているといい」
捨てゼリフと共に馬の着ぐるみは事務所から走り去る。扉をくぐる時、がつりと仰け反ってから。
それを見送った探偵はエアコンを見上げて、「ふむ」と一声を漏らした。
喫茶店で涼み、バイトのウェイトレスに頼んでコンビニアイスを買ってきてもらった馬の着ぐるみ男は覚悟を決めて事務所の扉を開ける。
エアコンの切られた事務所の熱気と着ぐるみな自分を顧みればうんざりだった。覚悟が必要だった。
「おかえり」
スッとシャンプーの匂いが男の鼻をくすぐる。
ざっくり通気性重視の着ぐるみに冷風が通り過ぎていく。
「エアコン洗浄とメンテをしたからな。快適だろう?」
「メンテ?」
「室外機の周囲も掃除したしな。断熱材の巻が甘いところも巻き直したしな。キュッと締め上げられれば気持ちもイイ」
着ぐるみ男がスッと袋を差し出す。
「おお、アイスか! いいな」
「君は、職種を間違えていると思う」
「失敬だな! 探偵業を廃業する気は無いね」
袋からバニラアイスを取り出した探偵は、着ぐるみ男にスプーンを要求するのだ。
「アイスをすくうのは金属スプーンがイイね」
なぜか続いた




