人生行路
お題もの
そこは雑居ビルの一室。
向かい合う二人は数年の間、この事務所を切盛りしてきた。
「これでわれわれは永久の別れとなる」
「寂しいな」
「次に出会ってもわれわれは無関係な他人なのだ。よくわかっておくように」
「寂しいよ」
「いいかな? 君が望んだんだ。これまでと別の人生を歩きたいと」
「寂しいんだ」
肉球ともこもこ毛皮の手が伸ばされる。
「それが君の選んだ道だ」
クッと触れたいをの耐えるように目を背け、事実を突きつける。
「さみしいんだよ! この着ぐるみを脱ぐ日が!!」
「君の選択だろう?」
名残を惜しむ着ぐるみの男に素っ気なく告げる。
「それで君が作った着ぐるみに包まれる年月の終わりを示すと言うのならば、今一度考えてみる必要があるのやも知れぬかと」
「なっ」
「気がついてないと思っていたのかい? 君がコッソリと作ってくれた着ぐるみの数々。いつだって感謝していたさ」
「しかし、契約期間は終わったのだ」
「そうだね。探偵としてはヘボな君を残して行くのは心配だけど、君と過ごした数年間はとても楽しかった。焦げたクッキーも硬いパンケーキも愛しかった」
「さっさと行きたまえ!」
そうして二人は別れる。
着ぐるみを脱いだ彼が料理ベタの女探偵にプロポーズに来るまであと数日。
ねーとにあ、誰にも言えない趣味を持つ探偵ときぐるみを着た男、二人にとって余りにも短かった数年間のお話書いてー。




