揺れる心
じっとりとした空気が肌に張り付く。
流れる黒髪を掻き上げる仕草。
甘く爽やかな石鹸の香りが溶け香る。
壁に押し付けて、耳元に囁きかけたい。
「ねぇ、僕を誘惑してるコト、気がついてるよね?」
じっとりとてのひらににじむ汗。
ああ。
言ってしまえれば楽だろう。
でも、
言ってしまって否定されるのは嫌なんだ。
夏の薄着。
透ける生地の影。
気だるげな斜めの眼差し。
長いまつげの落とす影。
僕は君に誘惑される。
組んだ足。脱げかけの下駄。
「浴衣じゃないんだ」
「着ようと思ったのに汚しちゃった」
友達と喋る君は明るく笑う。
手摺に腰掛けて笑う。
揺れる足。
細い足首。眩しい素足。
自分の魅力に無意識なはずがないよね?
僕は直視もできず、君を追い続ける。
僕の視線。
わからないとはいわせない。
違うんだ。
わかってほしいんだ。
てのひらに滲む汗。
声をかけたい。
「おい」
「うん。今行く〜。ごめんネ」
「イイよー」
男が君の友達を連れ去って行く。
一人になった君は体をそらせて空を仰ぐ。
声をかけたい……
「ねぇ。一緒に遊びに行かない?」
君の声。
「わからないなんて言わせないわよ。見ての通り暇なんだから」
君が僕を見て笑う。
「ね。暇でしょ?」
とにあへのお題は〔わからないとはいわせない〕です。
〔カタカナ語禁止〕かつ〔キーワード「てのひら」必須〕で書いてみましょう。




