眠れない日
ゆるい光が大地を照らす。
ゆるゆると燻された枯葉の絨毯。
かさりかさりと秋が続く。
甘い匂いが生き物の寝床を作る。
実りに肥えた大地の隅々に夏から冬へと伝えられる残り火。
朽ちかけた廃屋。人が訪れなくなって数年。
人のいない建物は早送りで朽ちていく。
そんな場所へ訪れたのは一人の青年。
彼はぱらぱらと降り始めた雨をよけるために廃屋へと飛び込んだ。
錆び落ちた錠は役を果たさず青年の侵入を許す。
薄暗い中、慎重に進む青年の上にポツポツと汚れた水滴が降る。
舌打ちし、悪態を零す青年は無造作に古びた引き出しを引いた。好奇心だったのか、八つ当たりだったのか。
桐に守られた引き出しの内側はかさりかさりと音を立てる紙の束。
たどたどしい文字で『別れ』を綴る内容。
青年はその紙を大切そうにそっとたたみ直し引き出しに戻す。
天井を仰いだ青年は動きを止める。
天井を住処にしている鼠も動きを止めた。
青年は朽ちたハシゴにつまづく。
声はかけらもこぼれなかった。
ただ幾度も交互に見比べる。
天井から覗く白い指。
「少し、待っていてくださいね。おろしあげますから。もう、大丈夫ですよ」
青年は甘い色を帯びた眼差しを白く細い指に向ける。
「会えて、嬉しいですよ。おかあさん」
秋の雨は気紛れ。
電波は届かず、雨は止まない。
とにあへのお題は〔眠れない日〕です。
〔一人称(私、僕等)の使用禁止〕かつ〔キーワード「手紙」必須〕で書いてみましょう。
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多分彼は眠れない。




