ことり
一羽の小鳥が空を泳ぎながら歌っている。
「私は昔海にいたの」
小鳥の言葉を真剣に受け止めるものは誰もいなかった。
きれいな瑠璃色の小鳥はそれでも歌う。
「私は昔海に住んでいたの」
海でない空を泳ぎながら小鳥はいつも同じように歌う。
誰が信じてくれなくとも。
ある日、そんな小鳥に声をかけた者がいた。
小鳥は嬉しくて急いで降りていった。
嫌になるような生臭い匂いにも我慢して……
「ねぇ、ことりさん」
声をかけたのは一人の人魚。
人魚は空を飛びたかった。
小鳥のように軽やかに。
「なぁに?」
小鳥は差し伸べられたその指に下り、小さく頭を傾げた。
そのかわいらしさ!
人魚はにっこり微笑んだ。
「小鳥さん、私は昔空を飛んだのよ」
人魚の言葉に小鳥は首を傾げました。
「でも、あなたは人魚。人魚は水から出れないわ」
小鳥の言葉に人魚は微笑んだ。
人魚は小鳥の足を掴んで、もう一度にっこり笑った。
人魚の後ろでパシャリと水が跳ね上がる。
小鳥は慌てて逃げようともがいたが小さな小鳥は飛び立てない。
「……だから……」
のびてくる人魚の手が小鳥は恐かった。
逃げられない!
小鳥は気がつく。この受け入れがたい匂いが何か。
海……潮の匂い……
人魚の手が優しく小鳥の羽を撫でる。
小鳥には既に疎ましく感じる
海水がその翼にかかる。
「その翼を……」
人魚はにっこり微笑んだ。
この可愛い小鳥が飛び立てず、自分を見ていることに。
「返して……」
あか
瑠璃色の羽が水面に落ちる……
ふわふわ
ふわふわ
羽が
赤く汚れた瑠璃色の羽が海面に静かに落ちてゆく
人魚は口についた血を指先で拭い、その指を舐めた。
くるりと人魚は周囲を見回した。
そして体をひねり、水鏡にその姿を映す。
蜜色の髪、瑠璃色の瞳、青白い肌。
橙色の鰭。
人魚はその姿に眉をひそめた。
忌々しげに吐息を洩らし、人魚はその身を翻し、海に潜った。
「あの子じゃなかった」
水に潜る寸前、人魚はそう洩らした。
人魚もまた空に還りたかった。
そして
翼をもがれた小鳥は人魚と一緒に海へと還る。
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