魔法使いと魚
魔法使いの家は森の中。
そばには小さな泉。
さやさや流れる小川。
小さな魚は魔法使いの家のそばに住んでいた。
『私は空を飛びたいの』
魚の言葉を聞きつけた魔法使いはにっこり笑って頷いた。
「いいとも」
魔法使いはそう言ってねじくれた杖を振り上げ、魚に魔法をかけました。
魚はうろことヒレを失い、小さな翼とくちばしを得た。
くるくるくるくる魚だった小鳥は木から木へとび遊び可愛い声で歌う。
『もっと、高く飛びたいわ』
低く飛ぶことに飽きた小鳥はそう魔法使いにねだった。
魔法使いは今度も軽く頷くと
「いいとも!」
今度は可愛い声を失い、替わりに大きな翼を手に入れた。
魔法使いは大空をかける鳥を見上げ微笑んだ。
魚だった鳥は森を見下ろし、遠い海を、丘を、飛び回り夜は木の洞で眠った。
魔法使いはじっとそんな鳥を見つめて笑った。
幾晩かたったある日、鳥が魔法使いの杖の先にとまった。
『夜を見たいの』
鳥の好奇心に満ちた目を見ながら魔法使いは鷹揚に頷いた。
「いいとも」
魚だった鳥はフクロウになった。
得たものは夜の世界。失ったのは昼の世界。
フクロウは幾晩もの夜を楽しみ、首を傾げた。
そして翌晩、魔法使いの元へ訪れた。
「なんのようだね」
魔法使いに尋ねられ、フクロウは大きく翼を広げた。
『私、魔法使いになりたいの』
魔法使いは軽く杖を振り上げた。
「いいとも!」
フクロウは魔法使いに、魔法使いはフクロウに――
魔法使いだったフクロウは大きくはばたき森の奥へと消えていった。
『やっと自由だ! 俺は魔法使いでなくていい! 森に帰るんだ!』
そのフクロウの鳴き声を聞きながら魚だった魔法使いはため息をひとつ。
「やれ、また元に戻ってしまったわい」
魔法使いは転がってる自分の杖を拾い上げた。
過去作
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