ネコと不思議
桜、と言われて何を思いつくだろう。
入学式とか、花見だとか。何かと楽しいイベントを思いつくと思う。
実際私もそうだった、その日までは……。
桜というものは決して楽しい事ばかりではないのだ。皆さんも聞いたことがあると思う。サクラの下には死体が埋まってるっていう言葉を……。
その日は入学式だった。
私も真新しい制服に身をつつみこれから始まる新生活に期待を膨らませていた。
「おーい、森本!」どこからか私を呼ぶ声が聞えた。
この声は何度も聞いたことのある声だ。どこにいるのだろう。私は辺りを見回した。
「ここだよ。ここ!」
「あっ! あやちゃーん!!」
声の主である木本彩は玄関のところにいた。私はそこまで走っていく。
「よかったよー。知っている人がいて。知り合いがいなかったらどうしようって不安だったんだ」
「ハハ、考えることは誰も同じみたいね。私もさ、ちょっと前にここに来たんだけど、誰も知っている人がいなくて不安だったから誰か来るか待ってたんだ」彩は照れるように笑った。
「そっか。じゃ、一緒に教室まで行こうか? 彩ちゃんはクラスはどこだった?」私達二人は歩き出した。
「あたしは3組だったよ。唯は?」
「彩ちゃんも? あたしも3組!!」
私は彩と一緒のクラスだということを知り安心した。知り合いが同じクラスにいなかったら高校生活出遅れていたかもしれない。そんな不安があった。
「よかった。そういえばさ、彩は部活とかするの? 中学のときはテニス部だったけど……」
「うーん、どうしよっかなぁ。あたしバイト始めたいから、そっちが落ち着いたら入部してみようかな。彩は? また帰宅部?」
私が訪ねると彩は誇らしげに鼻の下をかく。
「へっへーん。あたしは帰宅部のエースだからね。やめるわけにはいかないよ」
「あはははは……」
雑談している間に教室の前に着いたので私は扉を開けた。
私が先に中へと入る。すると、既に教室の中にいた人たちの半分位の目線が扉に集ってきた。
私はなんとなくその視線のいくつかに威圧感を感じて恐かった。
「えへへ、よろしくお願いします」
私は近くの人に聞えるか聞えないかぐらいの声の大きさで言った。
「唯。あたし達の席はどこかな?」
「うーん」そう言って私は、何かないか辺りを探した。黒板に一枚の紙が張ってあった。私はアレを指差して「あれかな?」
私達はその紙に近付いていった
「そうみたいだね。どれどれー? 唯は森本で『も』だからー。最後みたいだ。私は二列目の真ん中か」
「今すぐ席に着く必要も無いだろうし、席に荷物を置いたら後ろで先生が来るまではなしてようよ」
「そうだね!!」
それから数分後、このクラスに全員が集った頃。
前の扉が開いて一人の男性が現れた。パッと見がたいも良く体育会系といった感じだ。この人が体育の先生になるのだろうか。
「おーっす。始めまして。私は阿部というこれから何年間か、よろしくたのむぞ。よーし、まずは入学式のときに渡してあったはずの宿題を後ろからまわしてもらおうか? まさか、初日から忘れたやつなんていないだろうな」先生は良いながらガッハッハッハと豪快に笑う。
その笑みを見てなんとなくこの人は良い人なんだろうなと思うけど、どこかでめんどくさそうだなとおもっていた。
「よし、今日は解散だ。明日からまずはガイダンスからだろうが授業がある。忘れ物を絶対にするんじゃないぞ」
気がつけば既に午後の2時を回りそうな時間。初日という事もあるので半日ちょいで終わりだ。
私のおなかがく~という可愛い、他人に聞かれたらちょっと恥ずかしい悲鳴を上げていたので私は足早に帰ることにした。
それにしても初日で委員決めも終わらせてしまうとは……。もう一日位半日の日があると思ったのに。
「よっこらしょっと!」
私は一息入れないと持ち上がらないカバンを肩にかけた。
「あっ、唯はもう帰るの?」すると彩が話しかけてきた。彩はまだ学校に残るのだろうか。
「うん。私お昼持って来てないからね。お腹空いちゃって」
「そっか~。なら、私も帰ろうかな~。唯いないならいても仕方ないし」聞く人が聞けば誤解されそうなセリフを彩は言った。
「えへへ、ごめんね」私がそう言うと彩は「いいって、いいってー!」と元気よく返したのだった。
私は彩と分かれて玄関へと向かった。靴を履き替え、駐輪場へと急ぐ。そして、鍵を解除して自転車にまたがった。
「それにしても、何のバイトをしようかなぁ……」
私は空腹を覚えながら、帰り道をただ進んだ。
そして、いつも帰り道の途中で通る公園が見えてきた。
「あっ、かわいいー」私はその公園の出口の所に真っ白な可愛いネコを発見したのだった。そのネコはこちらには気がついていないようでどこかへと向かおうとしていた。
「よっし、どこが住処なのか突き止めてやるぞー!」
私は大のネコ好きである。それはもう、先ほどまで自己主張していた空腹さえ忘れ、追いかけてしまうほどには……。
「どこだろう。ここ……」
そんな私がふと気付き辺りを見渡した頃には辺りはまったく知らない景色となっていた。
自転車を降りてキョロキョロと辺りを見渡す。
少し太陽も落ち込み影が出来ているのでなおさらここがどこだか分からなかった。
私の心に不安と言う影がさす。
「にゃ~お」
そんな時、先ほど追いかけていたネコの鳴き声が聞えた。
聞えたほうに視線を向けると、どこかの家に入るようで石垣を超えようとしていた。
「にゃ~お」
が、一度立ち止まると私の方を向きもう一度鳴いた。
「着いて来いって言ってるの?」
私は恐る恐るそのネコの方へと歩いていった。そのネコは私が歩き出したのを見ると前を向きその中に入ってしまった。
「どんな家なんだろう」私は恐る恐るといった感じでその家を除いて見た。
「すっごい、何か……。古い」
私はそこにあった家に驚いた。その家には二階は無いものの一階は入り口からみてもそこそこに大きく。
なんとも和風といった感じの家だった。
なんとなく私はその家に引き込まれるようにしてその中へと入っていった。
「ごめんください」
私は小さく呟いて、玄関を開ける。ここの玄関は横開きだった。
もし、自分で言っていてなんだが側から見れば不審者だろう。
「あら、誰かしら?」
中を見てみると丁度そこには散歩から帰ってきたところのネコを抱き上げようとしている女性がいた。
その女性は私を不思議そうに見る。
「すいません。私ちょっと道に迷ってしまって……。私は朝倉という所に帰りたいんですけど……」
私がそういうと女性はふぅん。と言って私の目を見つめてきた。
私はそのなんだかねちっこい視線がいやで目を背け、片目でちらちら女性の方を見た。失礼だっただろうか。
すると、女性はいきなりニカッと笑って言った「あなた、名前は?」
「えーと、私の名前は森本唯といいます……」言葉尻がすぼまってしまった。
「うん。良い名前ね。私はみことって言うわ」
「そうなんですか。良い名前ですね」
私がそう言うと女性……みことさんは少し困ったような顔をした。
「そう? あたしの知り合いは皆みことって聞くと嫌な顔をするわ」
「そうなんですか。それは酷いですね。良い名前なのに」私は頬を膨らませた。
「フフ、本当に良い子ね。そう、朝倉だったかしら。朝倉なら……。」
私はみことさんから朝倉までの行き方を教えてもらった。
「ありがとうございました」私は頭を下げる。
「いいのよ。何かに困ったら家に来なさい」
私はその家?を後にした。
それから数日。学校ではとある噂が立つようになった。
その日お昼休みに私は彩ちゃんと話しをしていた。
「ねぇねぇ、知ってる? 何かここ、でるらしいよ」彩は持っているやきそばパンをほおばりながらニヤニヤと笑いながら私に話しかけてきた。
「うぅ、彩ちゃん。私がそういう話苦手なのしってて言ってる?」
「えへへ、もっちろーん! 全く唯はかわゆいなぁ。頭を撫でて進ぜよう」
彩ちゃんはそう言ってやきそばパンを机に置くと私に接近し頭を抱くようにして頭を撫でてきた。
とりあえず、私は持っていたお箸を置いて抵抗した。
「むぅ、やめてよー。髪の毛がくしゃくしゃになっちゃう」
「むふふ、めんこい奴、めんこい奴」
しかし、彩ちゃんは全くやめようとしなかった。
それから1,2分私は彩ちゃんの撫で撫でに捕まっていた。
昼休みも終わり放課。
私は一人帰り道を自転車を押して歩いていた。
今日は何故か、宿題が多く出たのだ。
その宿題が入っている背中のカバンが心なしか重く感じた。
「なんで、今日はこんなにも宿題があるんだろう。しかも、提出日間近だし……」
文句を言った所で、何にもなりはしないとは分かっているが何か言わずにはいられないのが心情だった。
そして何故かふと顔を上げた。
「あっ、ここネコさんにあった道だ……」
あたりを探すがあのネコはいないようだ。
「帰ろう。ネコを追いかけてる場合じゃないや」
私は自転車にまたがり家へと急いだ。
「なーい!! どうしてないのぉ!?」
家へと帰り、夕食も食べ終え、お風呂、家の手伝いも全部終わり、さぁ宿題をやるぞといきこんでカバンを開けてみると宿題に関係している教科書だけが無かった。
しかも、その宿題は毎日出ているものなので期限は当然のごとく明日。窓から外を見るが暗かった。
どうしよう。焦燥感だけが募る。
取ってこようか。そんな考えが頭に浮かんだ。
そんな考えが頭に浮かんでからは早かった。
クローゼットを開け、ちょっと厚手の上着を羽織った。もうお風呂に入ってしまったし外へと出ると体が冷えそうだけど、そこらへんは若さが何とかしてくれるだろうと、楽観視してみた。
自分の部屋は自宅の二階にあるので一階へと降りる。
そこでは、お母さんが明日のための下ごしらえをしていた。
「お母さん。ちょっと学校に忘れ物しちゃったから取って来る!」
「んー」お母さんはこちらを見ずに手元を見ながら返事をした。
それを聞いた私は玄関へと急ぎ、靴を履き替え、夜の世界へと身を乗り出した。
夜の道という物をこの時始めて走った訳では無いのだが、それでも慣れてるとは言いがたい為、少しばかり恐怖感が心の中にあった。
「~♪~~♪」
そんな恐怖が少しでも薄まれば良いなと鼻歌とか歌ってみたりして。それでも直ぐにこんな夜に歌を歌っていたら不気味だろうと気付き口をつぐんで心の中で歌った。
しばらく自転車で走り学校で着いた。
門を開け玄関の前に立つ。
「うーん。昼の学校はあんなに楽しい所なのにどうして夜になるとこんなに不気味なんだろう」
私は、その不気味な校舎を前に腰を引きながら、せっかくここまで来たのだし。と、勇気を振り絞ってその玄関の扉を開けたのだ。
今思うと私は何故この時そんなありえない事に疑問を持たなかったのか不思議でならない。しかし、多分私の頭の中には忘れ物のことしかなかったのだと弁明をしておきたい。
自分の教室まで来た私は、自分の席の引き出しを漁っていた。
「ふー、よかった。あったぁ!」
その時の私の顔はほころんでいた。これで明日怒られなくて済むと、そんな安心感からのほころびであった。
私はそれをズボンのポケットへと突っ込んだ。
誰もいない階段を一人降りていく、時々変な音がするので辺りを見回しびくつきながら……。
そして私は玄関の扉を開け校門へと走る。校門の前に自転車を置いたのだ。
「私の馬鹿。なんで、学校外に自転車をおいたんだろぅ。ここまで持ってきておけば……」
「にゃぁーお!!」
「って、あれ? この声あのときのネコ?」
すると、たった今どこかで聞いたようなネコの声がした。私はその声が数日前に出会ったネコの声に似ているなと思い当たりをつけた。
随分と威嚇しているような鳴き声だった。
「なんで、こんな所できこえるんだろう」
私は、恐いもの見たさかその走る事を止め、その鳴き声のするほうへと歩いていった。
「ここって、校庭? あっ、いたネコ!!」
私がたどり着いたのはいつも体育などで使っている校庭だった。
私が見回すと一本のサクラの木の前で全身の毛を逆立て必死に唸っているネコがいた。
「あら? あなた……。」
「!!!???」
すると突然声がした。私はその声に驚きその声のするほうへと顔を向けた。
そこへは、あのネコとであった日にあったみことさんがいた。彼女は黒っぽい蝶をモチーフにした傘を差し石垣にすわっていた。
彼女は私の驚きっぷりを見て嫌な顔をした。
「失礼ね。ただ声をかけただけなのに……」
「す、すいません」明らかに自分が悪かったので何もいえない。
「あの、ネコちゃんは何をしているんですか?」
私は、みことさんの隣に座りながら尋ねた。
みことさんはその私の問いにニヤリと笑ってネコの方を向く。
「ネコはね。呼び出しているのよ。」
「何をですか?」なにやら含みを持たせて言うみことさんをせかす。
「何ってあれよ」そういってみことさんはネコの先にあるサクラの木を指差した。私も、その指につられその方向をみる。
その瞬間。サクラの木の根元から複数の触手のようなナニカが飛び出てきた。
「な、何ですか! あれは!!??」
飛び出てきた触手のようなものはネコに向かって伸びていく。
私にはあれがナニカは分からないが明らかにネコに攻撃しようと向かっている。
守らないと、そんな思いが私の足を動かす。
「あれ? あれはあの木の根っこよ」
みことさんはいつもと同じテンションで話す。私にはそれが信じられなかった。もうすぐ、あのネコは死んでしまうかもしれないのに……。
「大丈夫よ。だって……」彼女は私の心を読んだかのように言う。私がその時いた場所からは走っていた事も合ってなにを言っていたかは聞えなかった。
間に合え!
明らかに間に合わないことは私の足の速さと、ネコのいる距離そして、根っこのスピードから分かりきっていた。
あ、間に合わない。そう私が思ったとき。
シュキンという何かを抜いた音。ザグッ、ザグッという何かを切った音が響いた。
私は目の前で起きた事を信じられなかった。
あの4足歩行であるいていたネコが先ほど突然後ろ足で立ち上がり、懐にあったと思われる刀を抜き、迫り来る根っこを刻んだのだ。
「ね? 大丈夫だったでしょう?」
すると、サクラの根っこが一瞬ひるんだかのように見えた。
ネコは4足歩行に戻りサクラの幹の近くへと行くと前足を地面の中に突っ込んでいた。
そして、何かを引きずり出した。
「!!!」それを私の脳が認識しようとした瞬間私の目を何かが覆った。
「ごめんなさいね。唯ちゃんには刺激が強いわね。大丈夫よ、気にしないで。だいじょぶだいじょぶ。」
みことさんだ。みことさんは私の体を後ろから抱き耳元でだいじょぶとささやきながら私の頭を撫でていた。
そうされることで段々と私の気持ちは落ち着いていく。『死体』を見たというのに。何も感じなかったのだ。みことさんに抱かれていたことで帰って気持ちいいと感じていた。
私は何故かその事が怖かった。
その後のことはあまり語りたくない。
簡単に言うと、その後みことさんに連れられみことさんの店兼家に行き一泊した。勿論お母さんとかにも連絡をした。
朝起きると枕元に朝食、店から学校までの道のり、そして何故かその日の時間割が用意されたカバンと制服、そして少し用事があるので出かけているというメモ書きがあった。
私は着ている服の上からその制服を着込みその店を後にした。
忘れよう。そう決意した。関わらないように……。
しかしそれは無理だった。学校ではその事でモチキリだし、そして何よりそのまた一月後の五月またもやこのような怪事件に巻き込まれる事になるのだ。
それらの事件の中心にいたのはあの2足歩行のネコとみことさんだ。あの二人?何者なんだろうという疑問が私の中で絶えなかった。
最後はダイジェスト。
疲れました。