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雨は気まぐれ

作者: Pity

 どうして心までひとつになれないのだろう。

 彼の丸まった背中を見て思う。……心まで見ることができたら誰のことも信じられないかもしれない。

 今日はセックスをする気分じゃなかった。だけどこの人が求めるならと思った。そのあとの甘い時間を与えてくれるなら。

 彼はセックスの後さっさと眠ってしまった。声をかけることも、かけられることもなかった。男とはそういう生き物だと割り切れたらよかったのに。

 もう潮時かな。

 不思議と悲しくなかった。愛されていないことはもう随分前からわかっていた。彼の女友達――本当にトモダチなのかはわからないが――に嫉妬するのも、自分のおもちゃを取られたような、執着心からくるものなのかもしれない。

 そんなことを考えたら、急に眠たくなってきた。もはや考えることも脳が拒否しているかのよう。

 彼に触らないように足を伸ばして、目を閉じた。


 自宅に帰ってきて、ため息を吐いた。彼に会う前より疲れが溜まっている気がする。ひとつ悪く考えるともう元には戻れない。いよいよかなあ。

 別れを告げることすら面倒に思えた。あの一連の流れが苦手だった。二度と会えないと思うと、離れがたくなるだろうことも知っている。

 だけど、もう、無理だ。

 外では久しぶりに雨が降っている。霧のように細かく降る雨だけど、憂鬱な気持ちになる。雨は嫌いだ。

 嫌いだ、というと彼の歪んだ顔を思い出す。雨が好きだという彼の顔を。そのたび、あなたが好きなもの全部、私が好きだと思い込まないで。そう思った。私はあなたには染まらないから。

 お気に入りのかばんがしっとりと湿っていた。雨は嫌いだ。


 まるで湖の底にたたずんでいるようだ。

 どしゃ降りの雨の朝、白い景色を見ながら思う。切なたがっている自分を見つけて、苦笑いする。が、それすらも自嘲気味で吐き気がしてくる。

 眠れなくて、急ぎでもない仕事を終わらせてしまった。きっと今日は、長い一日になる。

 雨が嫌いな彼女は来るだろうか。

 別れを告げられてから一週間。あの無機質な声を思い出す。どうしてなのか、理由すらも言葉すくなに、早く話を終わらせたがっていた。

 こんな話は電話でするものじゃない。せめて会って話すべきだ。こう言ったのは俺だった。彼女はわかった、と言った。ため息が聞こえたのは、俺の気のせいだと思う。

 女という生き物は不可解だ。男はあの体温が高く柔らかい体に金と時間を消費しているようにしか思えない。こちらが退屈していることに気づかず、自分のオチのない話を延々と続けるくせに、自分の些細な心情の変化にこちらが気づかないと、泣いたり怒ったりヒステリックになる。

 本当に面倒だ。

 

 朝五時。彼女が来る時間まであと、六時間もある。携帯を手に取り、男の名前で登録してあるオンナトモダチのアドレスを探し出す。

 暇だから、何かメールでも書こうと思った。しかし言葉が浮かばなかった。何も浮かばなかった。

 こんなに憂鬱な雨の日は初めてだ。俺はどんな雨でも好きなのに、彼女は嫌いだと言った。たまには雨に濡れるのもいいと言ったら、彼女は少し考えて、「荷物が濡れちゃうじゃない」と言った。

 俺はがっかりした。

 人は変わる。性格も、趣味も、仕事も、ファッションも、価値観も。同じでいられることなどない。変わりたくなくても変わっていく。忘れたくなくても忘れていく。

 愛さえ同じだ。永遠に愛し続けることなんてできない。完璧な愛など存在しない。


 そんなことを考えながら、インスタントコーヒーを飲む。まだ激しく地面を打つ雨を眺める。

 雨が嫌いな彼女は来るだろうか。

 答えはきっと、ずっと前からわかっている。

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― 新着の感想 ―
[一言] なかなか、心理面の描写がよかったと思います。
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