装着 Ⅶ
コウが踏み潰した。
その言葉に当然だがコウに視線が集まった。
「…それは、コウ、君とカケルの出会いに関わることか?」
ガロも、手をあごの下で組み、視線をカケルからコウに移した。
コウが居心地悪そうに頷くと、手を机に降ろしてからほぅ、と息をついた。
「カケルには『話すべき過去』がないという。話からすると、『君と出会ってからのカケルの過去』がこの場において一番重要なことのようだ。カケルの話の全てを信用することは私にも他の者にもできまい。だが、コウの話ならば私たちも少なからず真実だと認めることができる。隠しだてはせず、全てを話してほしい」
「……もちろん俺は構わない。ただ、トーガにもこの話を聞かせたい」
ガロは頷いて、髪の長い女に顔を向けた。
「アラウ、任せてもよいか」
「もちろんよ」
アラウと呼ばれた女は、コウに少し笑いかけると、そのまま外に出て行った。
そして数分後、二人の間にどんな会話があったのかは分からないが、笑顔で戻ってきたアラウの後ろにはふてくされた表情のトーガの姿があった。
トーガは苛立ちを隠そうともせずに椅子に腰かけると、腕を組んで目を閉じた。
兎にも角にも聞きはするらしい。
コウが話したことは、カケルとの出会いの経緯だった。
倒れていたカケルを拾ったこと。
突然暴走したカケルに襲われたこと。
カケルの笛の主を殺したこと。
勢い余って笛を壊したこと。
…生きる意味がないというから与えたこと。
話し終わった後、ガロはしばらく考えを巡らせていたようだったが、やがてレイヴン達に視線を向けた。
「君たちはどう思う」
レイヴンはいつの間にか四つ足全てを床につけていた椅子を、思い出したようにまた壁に向けて傾けながら興味なさげに言った。
「俺は最初っから歓迎っていったじゃないすか。ま、今の話でも悪い奴ではないらしいし」
「僕としては君の素性なんかより体の方が興味あるなぁ」
そう言ったのはシャリだ。
ニヤニヤと楽しんでいるようにも値踏みしているようにも見える笑みを浮かべている。
「ヴォンフってのは存在自体が稀だし、その殆どはその生物学的価値をまるで分かってない悪党どものとこにいるからねぇ。おかげであんまりその体の仕組みとか分かってないんだよぉ。僕の知ってる話だと、笛を壊されたら死んじゃうらしいってことだったし…」
「……はぁ!?」
コウは目を見開いて驚いていた。
……表面上はあまり変わっていないが、少なからずカケルも動揺していた。
「え!? は!? え、俺……いやでもじゃあなんでカケルは生きてんだよ!?」
明らかに混乱しているコウを見て、おもしろそうにクスクスと笑いながらシャリは言った。
「さあねぇ。僕も伝え聞いただけだしなんとも言えないよぉ。あ、これ、僕が知ってることだけでも説明した方がいい?」
コウは若干青ざめているようにも見える顔で頷いた。
カケルとしても自分のことは正直よく分かっていない。
カケルも頷いた。
じゃあ、と言って話しだそうとしたシャリを、静かな声が遮った。
「待て。それは後ででもかまわないだろう。今は皆の意見を聞きたい」
「りょうかーい。また後で個人的にねぇ。カケルくん」
シャリはコウのようにがっかりと言った表情も見せず、にこにことカケルに向かって手を振りながら身を引いた。
「ではアラウ。君は?」
アラウはテーブルに着いたひじに顎をのせて、少し考えるようなそぶりを見せながら言った。
「私は……カケルが嘘をついているようには見えなかったわ。ただここで大切なのは嘘をついているか否かではなく、カケルの行動が私たちの行動に害をなすためのものだったかかどうか、ではないかしら?」
「ど、どういうことだよ、姐さん」
エイジがわけがわからないという顔をする。
それに対してアラウは優しく微笑むと、「その話も後での方がいいと思うわ」と言った。
どういうことか分かっているらしい、ガロとトーガとシャリは頷き、その他はただ首を傾げるのみだった。
「とりあえず私は、私たちの仕事に彼を加えるか否かは別として、ここに置くぐらいはいいと思うわ。少なくとも、彼自身は敵ではないみたいですし」
「わかった。では君はどうだ?エイジ」
エイジはダン!とテーブルを叩いて立ち上がると、カケルと最初に会った時と同じ態度で言った。
「こいつは敵に決まってる!だってヴォンフですよ!ねぇ、トーガさん!」
エイジは同意を求めてトーガを見た。
トーガは閉じていた目を開くと、言い淀んでいるのかゆっくりと口を開けた。
「……俺は……」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
……あれ? 前回遅くならないって言った気が……
気じゃないですすみません
いつものごとくでした。
いつもここでは謝ってばかりなので、次こそは謝らないように頑張ります!
また次も読んでいただけると嬉しいです。
指摘や感想は大歓迎です。
本当にありがとうございました!