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装着 Ⅴ




「…ここだ」


時刻はまだ昼前だろうか。

ここは高い塀に囲まれているから、太陽の位置がつかみにくい。

カケル、コウ、レイの3人は、悪臭漂うゴミ山の前にいた。








あの話の後、コウはどこかに行ってしまった。

レイによると、コウ達は独自の連絡手段があるようで、仕事の前に一回集まりたいと伝えに行ってくれたらしい。


「あたしも詳しくは知らないんだけど。それより、集まるまでにはまだまだ時間がかかるはずだから、一回寝なさい。忘れてるかもしれないけど、あんた重症なんだから。休めるときに休んどかないとね」


そう言ってレイはカケルをベットに押しつけ、布団をかけた。


「……。やけにおとなしいわね…」

「…暴れてほしいのか」

「いーえ。そうやって素直に休むなんて意外だったから」

「……自分の体の状態くらい分かる」


話を聞いていた時は感じなかった体中の痛みが、何倍にもなってぶり返していた。

正直、眠れることはありがたかった。

ここ最近はなかった、深い安らかな眠りが、自分を誘うのを感じた。

いつもなら抗い、浅い眠りにしかつかないのに、今は何故か、そんな気になれなかった。


「ま、時間になったら呼ぶから。それまで休んでなよ。あんまり体の調子が悪いようならここから出せないからね」

「……」

「…?…あ、もう寝てる…。…寝てればおとなしくてカッコいいのになぁ…」


レイの呟きは、誰の耳にも届くことはなかった。








一体どれほど寝ていたのかは分からないが、起きたのは仕事の当日だった。

部屋には窓がないから、時間の経過がよく分からなかった。

時計は、コウが持ち歩いている小さな懐中時計だけらしい。


レイの診察をうけてから、3人は外に出た。

コウが、短剣を寝ている間に綺麗にしてくれたらしく、渡されたそれにカケルは素直に礼を言って受け取った。

初めて見たコウの家は、比較的きれいな内装とははるかにかけ離れた、がれきの寄せ集めみたいな外観をしていた。

コウによると、敵が来たときのためのカモフラージュらしい。

カケルは、ゆっくりと辺りを見渡した。

日の光が入りにくい下町だが、それでも夜の姿とは全く違い、その現状がはっきり確認できた。

と言ってもただ暴れているだけだったカケルにとって、町の姿などどうでもいいことだったのであまり覚えていないが。


『無法地帯』


そんな言葉がぴったりくる。

あちこちのゴミ、がれき。

訳のわからない落書き。

鼻をつく異臭。

そして、ぼろぼろの服を着て座り込む人間。


「…ひでぇもんだろ?」


カケルは何も言わなかったが、コウも返事を期待していたわけではないようで、こっちだ、と、いろいろなものが積み重なった山の間を、縫うように進んでいった。




話は冒頭に戻る。


「いつ来ても…すごい臭いよね…」


服の袖で鼻を覆いながらレイが呟いた。

口でこそ言わなかったが、カケルも同じ思いだった。


「だからこそ隠れやすくていいんだ。こんなとこ俺だってごめんだ」


そう言ってコウは、一際高くて臭い山の正面に立った。

そしてちょうど手を伸ばしたら届く距離にあった小さな山に、あろうことか手を突っ込んだ。


「う、え、よくできるよね、そんなこと」

「仕方ないだろ。安全のためだ」


コウは一心に何かを探っているようだったが、ついに見つけたらしく、嬉々として腕を引き抜いた。

しかし手には何も持っていない。

山の中では何か動作をしただけなのかもしれない。


そのとき、山が開いた。

これは比喩でも何でもなく、山の一部がまるで扉のように開いたのだ。


「さ、行くぞ。…カケル、気ぃ抜くなよ」


カケルは頷いた。

自分はよそ者。相手にとってはただの不審人物でしかない。

コウがいるとはいえ、いつ殺されてもおかしくないのだ。


入り際、カケルはちらりと扉を見やった。

どうやら木の板に周りと同じようなゴミを傾斜までつけて貼り付けているらしい。

しかも外からは開かないように取っ手がない。


狭い通路は人一人しか通れない。

カケルは最後尾を歩いていた。

そしてやっと開けたところに出る…という時。

カケルは無意識に頭をのけぞらせ、腰の短剣に手をかけた。

見れば、先ほどまで喉があった場所に、細身の刃があった。

視線を右に向ければ、自分とそう変わらないであろう歳の男が、剣を構えたまま睨んでいた。


「…なにもんだ。てめぇ」

「エイジ!やめろ!」


コウが叫ぶと少しだけ刃を降ろしたが、それでもそのエイジという男は殺気をぶちまけながら睨むことはやめなかった。


「エイジ、それ降ろせ。敵じゃない。俺が連れてきた」

「でもコウさん!」

「…エイジ、降ろしなさい」


深みのある声が、二人の会話を遮った。

カケルが改めて部屋の中を見ると、そこはコウの家と同じく外からは想像のつかないような小綺麗な部屋で、真ん中の大きなテーブルの周りには5人の男女が座っていた。

…警戒しているのが一目でわかった。

その中で一番年上と思われる白髪まじりの初老の男が口を開いていた。


「コウ。今日呼びだしたのはその子のことか?」

「そうだ。だから降ろせ、エイジ」


どうしようか迷っている様子のエイジに、もうひとつ声が飛んだ。


「あ、えっとぉ、カケルくん…だったっけぇ?エイジぃ、僕その子知ってるから大丈夫だよぉ。それにぃ、こんな中で一人なんだからぁ、何かしたって取り押さえられるでしょぉ?」


シャリはカケルの視線に気づくと、にっこりとほほ笑んで手を振ってきた。

相変わらず白衣で、昨日はよく見えなかった意外と長い髪を高い位置でまとめて縛ってあった。

…何故かシャリからだけは警戒心などが全く感じられない。


「…分かりました」


追い打ちをかけられたエイジは渋々と言った感じで漸く剣を鞘に収めた。


「で?なんでそいつここに連れてきたんだよ?」


椅子を後ろの壁に傾けて、後ろ2本の脚でふんぞり返っている男が、にやにやと笑いながら言った。


「…え…と…うん、まずはこいつ紹介するな」


そう言ってコウは全員の前にカケルを引き出した。


「こいつはカケル。昨日俺が拾ったんだが…行くとこないらしいし、えと…まぁ、その、なんだ、ここにおけねぇかなって…」


最後の方がもごもごと尻つぼみになっていくのを聞いて、カケルは内心ため息をついた。

これ以上の説明が難しいのは分かるが、この説明で警戒を解けと言うのか。

それは無理だろう。自分だったらできない。


カケルがつけたそうと口を開いた時だった。


「…まぁ、いいんじゃねぇの?」


そう言って席を立ち、カケルに近寄ってきたのは、にやにや笑っていたあの男だった。


「よろしくな、カケル!俺はレイヴン。36歳。好きな女はグラマーな年上美人!なんて呼んでもいいぜ。困ったことがあったら何でもいいな!」


そう言ってニッと笑ったレイヴンを、カケルは信じられない思いで見つめていた。

さっきまでの警戒がまったくない。

…これでも狼でもあるのでそういうモノには敏感なはずなのだが。


さっきの説明で解いた…のか?


「え!ちょ!なに言っちゃってるんですかアニキ!?そんなよくわかんない奴なんか受け入れられるわけないでしょ!」


そう言ったのはエイジで、まだ殺気をまとわせたまま睨みつけている。

これが妥当な反応だと思う。

テーブルに着いたままの数人も、殺気はなくても警戒はまだ続けている。

…シャリを除いて。


「絶対こいつスパイかなんかですって。コウさん人がいいから騙されてるんですよ」


エイジは興奮しているようで、今にもつかみかかりそうな勢いで言った。

それを押しとどめたのはあの初老の男だった。


「…もう少し事情を聞く必要がありそうだな。エイジ、いい加減にその喧嘩腰をやめなさい。コウはともかく、レイもいるんだ。そこまで危険な人物でもないだろう」


ここに入ってからずっとだんまりだったレイは、その言葉にようやく口を開いた。


「ここからはそっちの問題だから、カケルを受け入れるかそうでないかについて意見するつもりはないけれど、これだけは言っておく。カケルは悪い奴じゃないと思うよ」


初老の男はレイを見ながらゆっくりと頷き、それからカケルに視線を向けた。


「なら、ここからはカケル、君自身の言葉で説明してほしい。コウの説明じゃ、信じられるものも信じられないだろう。…分かっていると思うが、事の次第によっては、君をここから返すわけにはいかなくなる。皆も、それで構わないな?」


シャリと、もう一人眼光の鋭い男は黙って頷き、同じくテーブルについていた髪の長い女は、「かまわないわ」と呟いた。

エイジも不満タラタラという顔をしていたが頷き、レイヴンは「めんどくせ―」と言いながら席に戻った。

それをレイとコウはどこか不安げな顔で見つめていた。

読んでいただき、ありがとうございました!!

いつものことながら激遅更新すみません…。

これを投稿する前に各話のサブタイトルを少し変えました。

ここでの報告、ご了承ください。


さて、今回でレジスタンスの大体のメンバーは揃いました。

名前出てない人もいますが…次回出ます。

メンバーにもいろいろ設定考えてはいるんですが、全部出すとごっちゃになりそうで…。

まだ敵の方はあんまり出てませんからこれからも新キャラ出てくると思います。

次回はカケルの話が中心になるかと思いますが。




ここまで読んでいただきありがとうございました。

次も気長に待っていてくださると嬉しいです。


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