装着 Ⅳ
「―――――で、あんたはこの国をいったいどうしたいんだ」
コウは急に黙り込んだ。
その姿に困惑したように、レイが口を開いた。
「……どうって…本当の王を取り戻して、乗っ取っている奴らを倒すんでしょ…?」
同意を求めるようにコウを見たが、コウはレイの方を見ずに、カケルの方を見ていた。
「…あんたの話からして、今この国が抵抗軍を必要としているほど荒れているようには思えない。国民の不満も感じられない。他国からの乗っ取りだとしても、5年もかけていることから武力行使をするとも思えない。それに、いくら有能な王とはいえ、こんな小国ではこれからも国として大国と渡り合うことにも限界が来ることはわかっていたはず。むしろ、国民が傷つかず、今までと変わりない生活を送りながら、他の大国の庇護を得られるのなら、この機は好機ともいえる。―――それくらい、軍の指揮官として政治にもかかわってたあんたなら、分かってたことじゃないのか」
「―――そ、そんな言い方って―――」
反論しようとしたレイを遮ったのは、レイの肩に乗せられた、ごつごつとした男らしい手だった。
「コウ…?」
コウの体が、少し震えているように見えた。
しかし―――
「――――ッハハッ!ッハハハハ!」
いきなり笑いだしたコウに、カケルとレイは思わず顔を見合わせた。
コウはひとしきり笑うと、ふうーっと長い息を吐いた。
「はぁーっ、わりぃわりぃ。改めて言われると、そうだよなぁって思って。こんないい国を消そうとしてるんだからな」
そして、口の端は上がったまま、コウの目がすぅと細まった。
「俺は言ったはずだ。『この国を殺そうと思ってる』って。革命だなんだってかっこつけたって、この平和な国を乱そうとしてるのは変わりない。カケルの言うとおり、今のままの方が国民は幸せかもしれない。…でも、どんなことをしてでも、俺は」
「王と、王が好きだったあの国を、取り戻す」
コウの目が、一瞬きらめいたように見えた。
レイは何度も目を瞬かせたが、そこにはいつものこげ茶の目しかなかった。
「ふぅ」
そんな音を出したのは、カケルだった。
コウは、きっと本当にそれだけなんだと思う。
でも、それがいいことだけをもたらすわけじゃないと分からずに突っ走っていけるほど、コウは馬鹿じゃない。
――――――馬鹿でいられたら、どんなに楽だったか――――
「そうか。全て理解した」
「…もう、いいのか?」
「あぁ、別にこれ以上聞いても何も変わらない。疑問もなくなった」
そうか…とコウはあからさまにほっとしたような顔をした。
否定されることも考えていたんだろう。
だが…
「レイ」
レイの肩がピクンと跳ね、黒髪が小さく踊ったように見えた。
コウが置いていたままの手に気づいて慌てて下した。
「お前、納得してないだろ」
途端にコウの顔がこわばった。
俯いていて見えないが、レイも表情を堅くしているようだった。
「…別に…納得してないわけじゃない…けど…その…はじめてその話聞いたから…驚いただけで…それに、コウは純粋に、この国を良くしようとしてるのかと思ってたから…」
最後の言葉に、コウは目線を宙にそわそわとさまよわせ始めた。
口もパクパクと開閉を繰り返している。まさに『何を言ったらいいか分からない』という表情だった。
「まぁでも…」
そう言って上げたレイの顔は、今にも吹き出しそうに歪んでいた。
「ここまでやっといて今さらでしょ!コウのやってることは最終的にこの国が良くなるためのことなんだと思うし!…そ、それに、コ、コウの顔おもしろすぎ!!!」
ついに耐えきれなくなったらしいレイがその笑いを爆発させている脇で、コウは思い出して恥ずかしくなったのか少しふてくされたように顔を赤らめていた。
「あそこまで笑う必要があるかよ…あの時ホントにもうだめかと思ったんだからな…」
ぶつぶつ呟いているコウは無視して、カケルはレイの方を見ていた。
あのときの動揺は本物だった。
今だって本気で納得してるわけじゃないだろう。
だが、レイは一応ここにいることは決めたらしい。
そのためにあんな芝居を…いや、あれは芝居じゃないかもしれないが(確かにコウの顔は見ていておもしろかった)。
「コウ。頼みがある」
「ん?なんだ?」
「明日の『仕事』の前に、あんたの仲間に会わせてほしい」
まずはここまで読んでいただき、ありがとうございます。
これで背景説明みたいなものは終わりになると思います…
と見せかけて次回もあるかもしれません。
何しろ次はレジスタンスのメンバーが出て来る予定なので。
このメンバーも一筋縄ではいかないような奴らになるかと思われます。
それにしても5話目にしてまだ一日ほどしか過ぎていないという…
もっとスピーディーな展開をかけるようになりたいです。
本当にここまで読んでいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
いつになるかわかりませんが、続きも読んでいただけたらうれしいです。