表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

装着

前話からかなりの間があいてしまいました…。

本当にごめんなさい!

駄文ですが、読んでいただけると幸いです。

窓もなく、ランプ一つしかない薄暗い部屋。会議には適さないようなこの部屋で、二人の男が話していた。一人はガタガタと震え、もう一人はあたかもつまらなそうに、部屋の唯一の椅子に腰かけていた。


「ミ、ミナギ様…。ご報告が…。」

「フン、どうせ反乱分子のことだろう?」

「い、いえ。その、キジ殿が、今朝、い、遺体で、発見、されま、して…」

「…なんだと?どういうことだ!詳しく話せ!」


足もとで、哀れなほど震えている男を見下ろしながら、ミナギと呼ばれた男は語気を荒めた。震えている男は、ミナギに促されるままに、たどたどしく言葉を紡いだ。


「は、はい。け、今朝、下町に忍ばせている者から報告がありまして…。見たところ、その、殺害されたようでして…。」

「殺害だと?誰にだ!」

「それは、見つけ出すのは不可能かと…。な、なにしろ下町、住んでいる者誰もがやりかねませんので…。」


しばらくの間、重い沈黙が二人を包んだ。この部屋には二人以外誰もいない。無意識のうちに、男は息をひそめていた。


「意外と持たなかったな…。成果はどれくらいだ。」


気持ちが落ち着いたのか、一転して静かな口調になったミナギに、男は面喰いながらもおどおどと答えた。


「そ、その、キジ殿はいたぶるのがお好きだったらしく、まだ、数人ほど、かと…。」

「数人?たったそれだけか!?…しかたがない…あのペットはどうした。あいつは役に立つ。あいつに働いてもらおうじゃないか。」


一番恐れていた質問が来てしまった。男は体中の血の気が引いて行くように感じた。震えが激しくなる。


「それが、その、ご遺体の近くに、こ、これが…。」


おずおずと差し出された男の手には、粉々になった陶器の欠片がのせられていた。ミナギは目を見開いた。


「これは…笛か…?」

「は、はい。おそらく…」

「では、あの獣はどこに行った!誰がこんなことを!」

「わ、分かりません。しかし獣は、下町の、どこかに…」


ミナギは大きくため息をつくと、男に下がるように命じた。男は心底ほっとしたような顔をして、おたおたと部屋を出て行った。


「…分かっているな?獣があちらの手の内に入ったと分かれば、即刻殺せ。ゴミ掃除をしてくれているようなら、援護してやれ。」

「仰せのままに」


どこからともなく聞こえた声に、ミナギは満足そうにうなづくと、静かに部屋を立ち去った。










あれから自分はどうなったのか。分からない。ただ闇に落ちた記憶だけが残る。

今までも、闇の世界は訪れたことがある。ただただ闇だけが広がる、なにもない世界。体の痛みもない。何も感じない。怒りも、悲しみも、苦しみも、ない。しかし、何も感じないからこそ広がる、孤独。それだけが、カケルがすがることができるものであり、それだけが、カケルをこの闇に縛り付けるものだった。  

逃げようと思えばできたのかもしれない。でもこの世界は、カケルの帰るところだった。唯一の安らぎの場所だった。 しかし、今は、今のこの闇は、違った。いや、カケルが違ったのだ。もう帰りたくない、そう感じた。様々な感情が、体の中を駆け巡る。その中に、孤独はない。やがて光が生まれた。針の先で突いたようなそれは、みるみる広がり、カケルを包んだ。


そこは、光の世界だった。








バタン…ダダダダッ…ドカン!

扉の閉まる音とともに聞こえたのは、廊下を駆け抜けていると思わしき音と、扉を、壊しかねないような力で開く音。カケルが敵かと思う間もなく部屋に飛び込んできたのは、女だった。


「コウーッ!また怪我したんだ…て…。」

「……誰だ。お前…。」


女はベットの上のカケルを驚いたようにみつめた。歳はカケルとそう変わらないように見え、手には黒いバックをにぎりしめていた。さっきの発言からしてコウの知り合いらしい。


「あ、あんたこそ誰?コウは?」


ハッとしたようにおそるおそる問いかける女に、カケルは黙って一つの扉を指差した。カケルに疑わしげな視線を向けながらも、女は扉に近づいた。しかし、女が手を触れる前に、外側から扉が開いた。


「お、やっときたか。」


コウは女がいることにさして驚きもせず、部屋に入ってきた。コウは肩の傷を布を包帯のようにして縛っていたが、あまり効果がないのか、血がにじんでいた。


「コウ!やっぱり怪我してるし!それにこいつ誰!」


コウは苦笑を浮かべてカケルをみた。カケルも説明を求めてコウを睨んだ。


「あーこいつはカケル。これからしばらくここに住むから。…で、カケル、こいつはレイ。こう見えても医者だ。」


医者…。今まで関わることことなどなかったが、この歳でなるのは異例だろうというのはなんとなく分かる。レイはまだ疑わしげな顔をしていたが、やがてやれやれといった風に笑みを浮かべると、すっと手を差し出した。


「あたしはレイ。コウが家に入れるくらいだし、悪い奴じゃないんでしょ?よろしくね。」


しかし、カケルは手を出さなかった。怪我で動かしたくないというのもあるが、やはりまだ、そんな気にはなれなかった。


「なによ。コウ!こいつなんなの?」

「まぁ、許してやってくれよ。それより怪我、診てくれ。」


レイはまだ納得していないようだったが、「分かったよ」と呟くと、コウの包帯をほどこうとした。


「まてまて、俺よりこいつの方が重傷だ。カケルを先に診てやってくれ。」


レイはあからさまにいやな顔をした。カケルは気づいていなかったが、カケル自身も同じような顔をしていた。しかしレイはため息をつくと、カケルに近づいた。


「コウの頼みだし…。仕方ないから診てあげる。早く診せて。」

「カケル。いやなのは分かるがこいつは腕だけはいいからな。みせた方がいい。」


ここまで言われたら、こちらが悪い気がして、しぶしぶカケルは服を脱いだ。


「え…何これ…。こんなひどいの見たことない…。あんたよく生きてるね。」


カケルは自分の体をちらりと見た。なんとか血は止まっているが、傷と血の跡で、体中が埋め尽くされているようだった。別に今までも同じような傷を負ったことがあるし、いつでも傷だらけだったせいか、痛みには鈍感になっていて、そんなに大怪我とも思えなかったが。


「うぅ……と、とにかく、縫合も必要だし…薬も調合しなきゃだから…アレルギーとかは?」

「おいおい…お前医者だろ?なに気分悪くなったみたいな顔してんだ…。というか、アレルギーって何?」


レイは疲れたような目ですがるようにカケルを見てきた。その視線が気に入らなくて、ふいと目を逸らすと、レイは盛大にため息をついた。


「あんたたちってさ…あたし以外の医者にかかったことないの?…あぁもういいや…。つまり体質の異常のこと。他の人と違うところっていうか…でもあんたたちそういうのなさそうだもんね。適当にやっとけば大丈夫でしょ。」


カケルは表情は崩さなかったものの、内心困惑していた。他の人と違うところというか、そもそも純粋な人でもない。ちらりとコウをみると、みるからに困惑した顔をしていた。どうする?と問いかけるような視線に、微かに首を横に振った。言うつもりはなかった。心の奥底で何かが言うのを引きとめたからだ。


「レイ、それは…適当でも大丈夫なものなのか?」


レイはコウのもとに移動し、布をほどいていたが、その手を休めると少し考え込んでから言った。


「うーん。だいたいのものなら平気だけど…めずらしい体質とかだと薬が逆に自分の体を傷つけることもあるから…。でもそんなのは百万人に一人とかの確率だし、大丈夫じゃないかな?」


しばらく沈黙が続いた。それを破ったのはコウだった。


「カケル、やっぱり言ったほうがいいんじゃないのか?」


その言葉に興味をひかれたようにレイがカケルに目を向けた。


「なに?なんかあるの?」


カケルはコウを少し睨みつけながら言った。


「…なんでもない。」

「本当に?なんかあるなら言ってよ。」

「…うるさい。」

「カケル、こいつは信用できる。なんなら俺から」

「余計なことはするな。」


コウはため息をつくと、一転して真剣なまなざしをカケルに向けた。


「こいつにはこれからも世話になるだろうから、俺は言うぞ。それにこいつは呪術とかには疎いからな。そう怖がるな。」


怖がる?俺が?                             

でもカケルは否定できなかった。さっき自分を引きとめていたのは恐怖だったのだと、ふいに気がついた。またあの生活に戻ってしまうかもしれないという恐怖。我ながらガキっぽいとは思ったが、やはりそんなものに負けたくはなかった。


「好きにしろ。」


まったく…普通に言えないのかと自分にも腹が立ったが、コウは分かった、と笑みを浮かべた。


「あーなんていったらいいのかな…。単刀直入にいうと、こいつは狼人間なんだ。」


単刀直入すぎだ…。苦虫を噛み潰したような顔をしているカケルとは対称的に、レイはあんぐりと口を開けて固まっていた。


「………それって…ヴォンフ…?」


はっとしたように声を発したレイは、キラキラという効果音がとてもよく似合いそうな目をしていた。


「ヴォンフ?」

「人間と狼のハーフ!確か笛がどうのこうのってやつ!本当に?初めてみた!!」


キャッキャッと興奮しているレイは、中途半端に引っかかっているコウの包帯をほったらかしにして、カケルの体をじろじろと眺め始めた。


「自分で狼になれないの?その時意識ってあるの?なる時痛い?笛は?今までどんな人といた?親は?まさか本当に狼とかじゃないよね?それに―――」

「やめろ、レイ。」





心臓をわしづかみにされたような気がした。今までにも、同じ質問をされたことはある。なのに、今のはなぜか、痛い。自分が普通の人とは違うと分かっていても、それでも自分は人間なんだとどこか信じていた何かを、一気に壊された気がした。


俺は、こんなに弱かったか…?


コウがレイを止める声が聞こえたが、カケルはもうどうでもよかった。

これ以上なにも聞きたくない。

だがすでにカケルはよく分からないどす黒い感情に支配されていた。無意識に言葉が溢れて止まらなかった。


「答えてやるよ。俺は自分の意思で狼になれない。意識もない。なる時は痛い。いつの間にか体は傷だらけ。辺りは血だらけの肉片が転がってるだけだ。笛はコウが踏みつぶした。その前は殺し屋と一緒にいた。その前はいかれた犯罪者。それ以前は忘れた。親はよく覚えていない。なぜなら俺が3歳の時に俺自身が殺したからだ。これで満足か?もっと詳しく話そうか?」


化け物だと、何度罵られても、気になどならなかった。

親は人間だし、だから当然俺も人間で。


でも、今まで自分が生きてきたのは、裏の世界。


ここは、人間の世界。


俺は、人間じゃ、ない。



レイは先ほどの楽しげな顔を一転させ、今にも泣きそうな顔をしながら、ぶるぶると首を横に振った。コウもなにも言いだせないようだった。



「ご、ごめん…」


レイは絞り出すようにつぶやいた。悪気がないのは理解していた。だが…。



「すまないが、レイ。席をはずしてくれるか?」


コウが重々しい沈黙を破った。コウの声はあくまで穏やかだったが、有無を言わせぬ響きに、レイは頷いて部屋を出て行った。


「…コウ。」

「…ん?」

「ー俺って何?」


うー、とうめきながらポリポリと頭をかきながら、コウはカケルのベットに腰かけた。そして世間話でもするかのように軽い口調で言った。


「…知らないし、興味ねぇ。」


予想通りの答えに、うっすらと笑みが浮かんだ。それが自分がここにいる理由なんだろうななんて考えも浮かんだ。


「だから、俺はカケルを気に入ってんの。過去も未来も関係ないからな。」


そう言ってからコウは苦笑を浮かべて続けた。


「ちょっとくさかったな。まぁレイのことは悪かった。あれは昔からのあいつの悪い癖だ。研究熱心っていうか、好奇心旺盛っていうか、許してやってくれよ。」


またしばらく沈黙は続いたが、今度破ったのはカケルだった。


「俺は人間だと信じてた。でも、違うんだな。」


コウは少し驚いたように目を見開いたが、すぐにすっと細めた。


「お前、そんなこと考えてたのか。じゃレイにキレてたのもそういうことか…。…俺はてっきり過去のことをほじくり返されたからかと思ったよ。」


カケルはほとんどコウを無視して、そのまま続けた。


「人間でもないし、狼でもない。じゃあ俺はなんなんだよ…。」

「カケル…」


コウが見たのは、カケルが初めて笑みを浮かべているところだった。しかしそれは、喜びも幸せも感じられない、自虐的な笑みだった。


「俺、見るんだったら本当のやつ、見たかったよ。」


ちょっと悔しそうな顔をしながら、コウはばしっとカケルを殴った。カケルは痛みにうめいて、嫌みの一つでも言ってやりたかったが、コウの真剣なまなざしに何も言えなくなってしまった。

ふいに、カケルの脳裏にレイの言葉がよみがえってきた。いや、正確にはその時の感情と言うべきだろうか。


「弱い。」

「…え?」

「俺は弱くなった。」


コウは何も言わなかった。


「あの女に言われたこと。別に初めて言われたわけじゃない。今までだったら、なんとも思わなかったのに。なんで…」


そこでなぜか、本当に、本当にうれしそうな笑みをコウが浮かべた。


「…それ聞いて、安心した。お前は弱くなってねぇよ。むしろ強くなってる。」

「どういうことだ。」

「お前は前からなんとも思ってたわけじゃねぇ。ただため込んでただけだ。…まぁそのせいでレイはとばっちり食うはめになっちまったんだけどな。」


そう言うと少し苦笑いしてから、ふいに姿勢をぐたっと崩した。


「あーあ。ま、俺そういうのは強いって言わねぇと思うんだわ。そんなの弱い奴が弱点を知られたくなくてやることだってな。だけどカケルはちゃんと吐き出したじゃねえか。自分の弱いところを。それに…」


いきなりうつむいて何も言わなくなったコウを不審に思って、カケルが少し顔を覗き込むと…


「……うわっ!」

「俺すげぇうれしい!そんだけ俺を信用してくれてるってことだろ?こんな嬉しいことはねえよ!」


カケルは、視界がいきなり暗くなってから、それがコウに思い切り抱きしめられているからだということに気づくまで、しばし呆然としていたが、体が限界を告げ始めていたのでがむしゃらに腕をふるってコウから逃げ出そうとした。


「…なにやってるんですかぁ?その子、痛がってますよぉ?」


突然降ってきた無気力な声に、カケルもコウもぴしりと固まった。


「まさかコウさんがそっち系の人だとは思いませんでしたぁ。お邪魔してすいませんけどぉ、その子ホント痛がってますよぉ。」

「!わ、悪い!そういやケガしてんだったな…。」

「お前…誰だ…。」


そこにいたのは、いかにも眠そうに目をこすっている、白衣の男だった。年齢は…読めない。20歳にも見えるし、50歳にも見える。一応コウと知り合いのようだが、カケルは力の限り睨みつけた。こいつからは危険な臭いがする。狼の本能なのか、体中がこいつは危険だと騒いでいた。


「言っとくが、俺にそんな趣味はないからな。誤解するなよ?」


何かをコウが言っていたが、そんなのに答えている暇はない。とにかくこいつは危険だ――――


「……?」


突然、体中が騒ぐのをやめた。カケルはじっと男を見詰めたが、何も変わったようには見えない。ただ一つだけ言えるのは、この男は、今、危険であるということはなくなったということだ。ふいに、男はカケルを見据えると、驚いたように少し目を細めてつぶやいた。


「へぇ、分かったんだ。」

「…何だ。」

「べっつにぃ。あ、僕はシャリ。キミはぁ?」


初めに何を言ったのかカケルには聞こえなかった。しかしこのシャリという男とあまり話していたくない。結局必要最低限のことだけを言った。


「カケル。」

「カケルねぇ?よし、覚えたぁ。…で、僕は仕事で来たんだけどぉ、この子いてもいいのぉ?」


シャリはカケルから目をはずして、今度はコウに向かって言った。その言葉にコウは少し緊張したようにちらりとカケルを見やると、シャリに向かって頷いてみせた。


「明日の夜11時に、グローミー・バー集合。そっから直接仕事行くってぇ。…あ、そうそう。今度の獲物はこの国の№3のチェザルド大臣だってさぁ。…まぁあの人なら面白いかもぉ。この前のなんとかさんは全然手ごたえなかったしぃ。それに比べてあの人はかなりの腕前だってさぁ。…おっと、時間だぁ。じゃーまったあっしたー。」

全然話が進んでない…

次こそは話が進む・・・はず!

しかし今私生活のほうがあわただしくてですね…

次いつになるか正直わかりません

ですがちまちまと書いていくつもりなので、よろしくおねがいします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ